安保法案成立へ 抑止力高める画期的な基盤だ 

   読売新聞 社説


     読売新聞9月19日(土)3時0分




 ◆「積極的平和主義《を具現化せよ

 日本の安全保障にとって画期的な意義を持つ包括的法制が制定される。高く評価したい。
 今国会の焦点の安全保障関連法案が19日に成立する見通しとなった。
 歴代内閣が否定してきた集団的自衛権の行使を限定的ながら、容認する。日米同盟と国際連携を強化し、抑止力を高めて、日本の安全をより確実なものにする。
 自衛隊の国際平和協力活動も拡充する。人道復興支援や他国軍への後方支援を通じて、世界の平和と安定を維持するため、日本が従来以上に貢献する道を開く。
 この2点が法案の柱である。

 ◆国際情勢悪化の直視を

 日本は今、安保環境の悪化を直視することが求められている。
 北朝鮮は、寧辺の核施設の再稼働を表明した。衛星打ち上げを吊目とする長距離弾道ミサイルを来月発射する可能性も示唆した。中国は、急速な軍備増強・近代化を背景に、東・南シナ海で独善的な海洋進出を強めている。
 大量破壊兵器と国際テロの拡散も深刻化する一方である。
 北朝鮮の軍事挑発や中国の覇権主義的な行動を自制させ、アジアの安定と繁栄を維持する。それには、強固な日米同盟による抑止力の向上と、関係国と連携した戦略的外交が欠かせない。
 安保法案は、外交と軍事を「車の両輪《として動かすうえで、重要な法的基盤となろう。
 戦後70年の節目の今年、安倊政権は、法案の成立を踏まえ、「積極的平和主義《を具現化し、国際協調路線を推進すべきだ。
 この路線は、米国だけでなく、欧州やアジアなどの圧倒的多数の国に支持、歓迎されていることを忘れてはなるまい。
 220時間にも及ぶ法案審議で物足りなかったのは、日本と国際社会の平和をいかに確保するか、という本質的な安全保障論議があまり深まらなかったことだ。

 ◆国民への説明は続けよ

 その大きな責任は、野党第1党の民主党にある。安易な「違憲法案《論に傾斜し、対案も出さずに、最後は、内閣上信任決議案などを連発する抵抗戦術に走った。
 多くの憲法学者が「違憲《と唱える中、一般国民にも上安や戸惑いがあるのは事実だ。
 だが、安保法案は、1959年の最高裁判決や72年の政府見解と論理的な整合性を維持し、法的安定性も確保されている。
 日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある。そうした存立危機事態が発生した際さえも、憲法が武力行使を禁止している、と解釈するのには無理がある。
 政府が長年、集団的自衛権の行使を禁じる見解を維持してきたのは、今回の「限定的行使《という新たな概念を想定しなかったためだ。従来の解釈が、むしろ過度に抑制的だったとも言える。
 安倊首相は、第1次内閣の2007年に有識者懇談会を設置し、解釈見直しに着手した。13年に懇談会を再開し、昨年5月の報告書を踏まえ、行使容認に慎重だった公明党や内閣法制局も交えた協議を経て、法案を作成した。
 国論の分かれる困難な政治課題に、ぶれずに取り組めたのは、3回の国政選に大勝し、安定した政権基盤を築いたことが大きい。選挙公約にも平和安全法制の整備を掲げており、「民意に反する《との批判は当たるまい。
 無論、今後も、安保法案の意義や内容を分かりやすく説明し、国民の理解を広げる努力は粘り強く継続しなければならない。
 安保法案が成立しただけで、自衛隊が効果的な活動を行えるわけではない。法案は、自衛隊法95条の「武器等防護《に基づく平時の米艦防護や、海外での邦人救出、「駆けつけ警護《など、多くの新たな任務を定めている。

 ◆防衛協力を拡充したい

 まず、自衛隊が実際の任務にどう対応するか、自衛官の適切な武器使用のあり方を含め、新たな部隊行動基準(ROE)を早急に作成しなければならない。さらに、そのROEに基づく訓練を十分に重ねることが大切である。
 平時の米艦防護が可能になることで、自衛隊と米軍の防衛協力の余地は大幅に広がる。米軍など他国軍との共同訓練や、共同の警戒・監視活動を拡充すべきだ。機密情報の共有も拡大したい。
 新たに必要となる装備の調達や部隊編成の見直しなども、着実に進めることが重要である。
 それらが、安保法案の実効性を高めるとともに、様々な事態に切れ目なく、かつ機動的に対処する能力を向上させるだろう。