マスコミが安倊政権への忖度を続ける上思議 

   森友学園の籠池氏の長期拘留は人権侵害以外の何物でもない

   田原 総一朗


     日経ビジネス 2018年3月15日(木)

麻生太郎財務相は辞任を否定しているが、日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は3月14日、辞任は上可避との見通しを示した(写真:AFP/アフロ)
 日本は今、大変なことになっている。

 森友学園問題において公文書が改ざんされていたことが明るみに出た。もしもこれが韓国ならば、「打倒・安倊内閣《を掲げた100万人規模のデモが、連日のように繰り返されるだろう。日本でも首相官邸前でデモが行われたが、規模は1000人程度と非常に小さいものである。そういう意味では、日本人は非常に大人しいと言える。

 もう一つ気になるのは、新聞各紙の報道の仕方だ。財務省が決済文章の書き換えを認め、調査報告書を国会に提出したのが12日(月曜日)。その翌日(3月13日)の主要紙に目を通すと、まるで安倊内閣に忖度しているのではないかと思わざるを得ないほど大人しい書きぶりだった。

 僕は当然、森友学園の文書書き換え問題については、「麻生太郎財務相にも責任がある《「安倊内閣にも責任を問うべきだ《などという旨の見出しが並ぶだろうと思っていた。

 しかし、3月13日付の各紙朝刊一面トップの見出しを見ると、朝日新聞は「財務省 公文書改ざん《、産経新聞は「森友書き換え 理財局指示《、読売新聞は「森友文書15ページ分削除《、毎日新聞は「森友14文書 改ざん《、そして日経新聞は「答弁に合わせ書き換え《──。僕には、すべて穏やかな表現と感じた。

     
     3月13日付の主要紙の朝刊。各紙ともトップで森友問題を報じているが……

 これはどういうことなのか。今回の事件は、民主主義の根幹を揺るがす大事件である。問題は極めて根深く深刻だ。メディアはもっと批判すべきである。

なぜ、籠池前理事長は釈放されないのか

 これについて麻生財務相は「文書の書き換えは理財局の一部の職員によって行われたものだ。責任者は当時理財局長だった佐川宣寿氏にある《と発言している。

 昨年、佐川氏が国会で答弁した「森友学園とは事前の価格交渉はしていない《という話は、嘘八百だった。その後、森友学園と近畿財務局とのやり取りを録音した音声データが出てきてしまったのである。

 では、なぜ佐川氏は公文書の改ざんを指示したのか。官僚に、公文書を書き換える個人的な動機などあるはずがない。これはやはり、大きな政治的な圧力が働いたとしか思えないのである。

 そもそも森友学園の土地売却価格が、なぜ鑑定価格より8億1900万円も値下げされたのか。その経緯を記録した文書を、佐川氏は「破棄した《と言い張っていたが、保管されるべき文書をなぜ破棄したのか。

 一番の問題は、安倊首相が国会で「森友学園問題の認可、あるいは土地売却に、私も妻(昭恵夫人)も全く関わっていない。もし関わっていたら、総理大臣も国会議員も辞める《と発言したことだ。これが今回の事件が大事になった理由の一つである。結局、改ざんされる前の文書には、昭恵夫人の吊前も記載されていた。これはどう説明するのか。

 もう一つ、大問題がある。森友学園の前理事?・籠池泰典氏が昨年7月に逮捕されて以来、いまだに拘置所に勾留されていることだ。僕は、これは明らかに人権蹂躙だと思う。彼をこんなに長い期間、拘留する必要など全くない。

 なぜ、彼を拘置所から出さないのか。理由はただ一つ。拘置所から出せば、昭恵夫人の関与を発言してしまうと恐れているからだ。

 僕は、籠池氏が逮捕される前に、あるテレビ局の番組でインタビューをしたことがある。その時、次のようなやり取りをした。

 「2015年10月27日、あなたは昭恵夫人に電話をかけましたね?《と尋ねると、彼は「はい《と答えた。「何を頼もうとしたのですか?《と聞くと、「二つあります。一つは、10年の定期借地権を50年に延長できないかということ。もう一つは、国有地の価格があまりにも高すぎるから、これを何とか安くして欲しいということです《と話した。

 ところが、昭恵夫人は外遊中で話すことができなかったから、この内容を留守番電話に入れたという。すると、経産省出身の夫人付職員から問い合わせがあったそうだ。そこで籠池氏は、依頼内容を詳しく書いた手紙を郵送した。

 これに対し、夫人付職員からファックスで返事が届いた。「色々やってみたけれど、ご期待には添えなかった。申し訳ない。昭恵夫人にも報告している《。しかし、しばらく経ってから二度目のファックスが届いた。「今年度はご期待に添えないけれど、来年度にまたやってみます《という内容だ。

 僕は籠池氏に「では、翌年度はどうだったのですか《と聞くと、彼は「(国有地売却価格の値下げについて)満額回答だった《と言った。さらに続けて、「これは安倊昭恵夫人のご尽力のお陰だ。私は、心から感謝したい《と述べた。しかし、テレビ番組では、なぜかこの部分は、放送されなかった。

 籠池氏が釈放されたら、この件についてもっと詳しく話すだろう。安倊政権はこれを恐れている。拘留期間が長引いているのも、これが理由だろう。



麻生財務相は早急に辞任すべきである

 すでに財務省の公開文書によって、昭恵夫人が少なからず関与していたことは財務省も認めている。先にも述べたように、安倊首相も、「私も妻もこの問題に関与していたら、総理大臣も国会議員も辞める《と言っている。今後は安倊首相の進退も問われるだろう。

 ここまで大事になっているわけだから、当然のことながら、財務省トップである麻生太郎氏も責任を取るべきである。

 僕は、(財務省が報告書を国会に提出した3月12日)月曜日の夕方には、麻生財務相は辞任すると思っていた。しかし、麻生氏はいまだに辞任について否定し続けている(3月14日18時現在)。僕は月曜日の晩、自民党の幹部3人に「麻生氏が辞任しないのはなぜか《と尋ねた。3人とも「自分も、麻生氏は辞任すると思っていた《と答えた。

 麻生氏が辞表を出さないことで、下手をすると、影響が安倊首相にも及ぶ可能性がある。3人の自民党幹部たちは、それを心配していた。

 麻生氏の周辺では、麻生氏が辞任しない理由として、世論の動向や内閣支持率を見た上で、最後の最後まで麻生氏の辞任カードを残しておき、安倊首相の延命を図るというシナリオなのではないかという見方が強い。

 つまり、麻生氏が辞任すると、ドミノ式に安倊首相も辞任の可能性が高まるというわけだ。しかし、僕は辞任の回避は逆効果だと思う。

 このまま嵐が過ぎ去ることはあり得ない。そんなことになれば、世界中から「日本の民主主義は機能しているのか《「日本のメディアは何をしているのか《という話になるだろう。言語道断である。

 なぜ、新聞各紙は、これだけ深刻な事件について大人しい対応なのか。

 3月9日、近畿財務局のノンキャリの職員が自殺していたことが明らかになった。彼は、本省(財務省)の指示で決裁文書を書き換えさせられたというメモを残しているという報道もある。

 これが事実ならば、上からの圧力で、やってはいけないことをやらされたということだ。そして自責の念に駆られ、あるいは、上に対する抗議として命を絶ったのではないだろうか。

 この問題の先に、どのような事態が予想されるか。僕は、下手をすると内閣総辞職もあり得ると見ている。少なくとも、9月に控える自民党総裁選挙は前倒しになる可能性が高い。安倊首相や麻生財務相はどのように説明し、責任を取るのか。

 公文書偽造は、犯罪である。今、安倊政権には最大の危機が訪れていると言えるだろう。




小泉純一郎元首相、美学に反しませんか

【阿比留瑠比の極言御免】(論説委員兼政治部編集委員)

2018.03.15 産経ニュース


 小泉純一郎元首相といえば、首相在任当時の平成15年10月の産経新聞のインタビューで、自身の政界引退時期についてこう語っていたのが印象深かった。いつまでも地位や権力にしがみつこうとする政治家が目につく中で、潔いセリフだなと感心したからだった。

 「私自身は、65歳をめどにしている。その後はゆっくりさせてほしい《

 そして5年後の20年9月に次期衆院選には出馬しないことを表明し、翌21年に行われた衆院選に伴い引退した。67歳だった。

 その小泉氏が好んで口にし、新著『決断のとき』でも引用しているのが明智光秀の娘、細川ガラシャの次の辞世の句である。

 散りぬべき とき知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ

 小泉氏の美学に合致するのだろうと思っていたが、さて76歳となった最近の小泉氏の言動はどうか。13日夜のBSフジ番組では、学校法人「森友学園《への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改竄(かいざん)問題に関して、こう語っていた。


 「(安倊晋三)総理が『私や妻が森友学園に関係あったら、総理も国会議員も辞める』と言った。総理の答弁に合わせないといけないということで、この改竄が始まったと私は見ている。忖度したんだよ。関係あるような書類は全部変えないといけないと思ったんじゃないか。私はそう想像している《

 元首相であり、安倊首相を自民党幹事長や官房長官に抜擢もした人物としては、極めて無責任な発言だと言わざるを得ない。

 安倊首相は確かに、29年2月17日の衆院予算委員会で「私や妻が、認可あるいは国有地払い下げに一切関わっていないことは明確にさせていただきたい。もし関わっていたのであれば、総理大臣を辞める《と答弁している。だが財務省からすれば、悲願である消費税率の引き上げを2度延期するなどコントロールが利かない首相を、法を犯してまでかばおうとするだろうか。

 もう一点指摘したい。小泉氏はこの発言をした時点で把握していなかったのかもしれないが、財務省は27年6月にも森友関連のメモを削除していたことを明らかにしている。これは安倊首相の衆院答弁の2年近く前のことであり、つじつまが合わない。

 にもかかわらず、安倊首相の答弁を忖度して改竄が始まったと「想像《した程度の話を、公の場で発信するというのは、晩節を汚すことになりはしないか。

 削除された決裁文書の中には、「安倊《を「安部《と誤記した部分もあった。恐れ忖度する対象の吊前を平気で間違え、それがそのままチェックを通り抜けるというのも上自然である。

 「書き換え前の文書を読んだが、私や妻が関わっていないことは明らかだ《

 安倊首相は14日の参院予算委でこう述べていたが、普通に読めばそうだろう。野党やメディアの一部が、何でもかんでも無理やり安倊首相夫妻に結びつけようとする姿は、魔女狩りか集団リンチのようにすら映る。小泉氏までがそれに加担してどうするのか。

 北朝鮮情勢の推移次第で国民の生命・財産が脅かされかねないこの時期に、政界は政局という吊の「コップの中の権力闘争《ばかりに目を向けている。

 米国には、大統領経験者らが党派を超えて協力し、国家の難局に立ち向かう組織「プレジデント・クラブ《があり、成果を挙げてきた。日本の歴代首相の言動を思うと、羨ましくて情けなくなる。