読売社説

憲法記念日 改正論議の高まり生かしたい

2013/5/3付

 ◆各党は参院選へ具体策を競え◆

 安倊政権下の国会では憲法改正を巡る論議がいつになく活発だ。

 夏の参院選の結果次第で、安倊首相が公約に掲げる憲法改正がいよいよ現実味を帯びてくるだろう。

 きょうは、日本国憲法が施行されてから67年目の憲法記念日。日本の内外情勢は激変したにもかかわらず、憲法はまだ一度も改正されていない。そんな憲法の在りようを考える機会としたい。

 ◆まずは発議要件緩和を◆

 憲法改正論議の根底にあるのは安倊首相が指摘するように、「日本人は自身の手で憲法を作ったことがない《という事実である。

 戦前の大日本帝国憲法は天皇の定めた欽定きんてい憲法だ。現行憲法は占領下、連合国軍総司令部(GHQ)の草案を基に制定された。

 国民自ら国の基本を論じ、時代に合うよう憲法を改正するという考え方は、至極もっともだ。読売新聞の世論調査でも1993年以降、ほぼ一貫して憲法改正賛成派が反対派を上回っている。

 憲法改正の核心は、やはり9条である。

 第2項の「陸海空軍その他の戦力は保持しない《は、現実と乖離かいりしている。「自衛隊は軍隊ではない《という虚構を解消するため、自衛隊を憲法に明確に位置付けるべきだ。

 憲法の改正要件を定めた96条も主要な論点に浮上してきた。

 自民党だけでなく、日本維新の会やみんなの党も96条の改正を公約している。参院選後の連携を図る動きとしても注目される。この機を逃してはなるまい。

 96条は、憲法改正について衆参各院の総議員の「3分の2以上《の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を得なければならないと定めている。

 世界でも改正難度の高い硬性憲法と言えるだろう。GHQは、日本で民主主義が確立するには時間がかかると考えたようだ。

 自民党の憲法改正草案は、96条の「3分の2以上《という要件を「過半数《と改めている。

 国会が改正案の発議をしやすくなるだけで、最終的にその是非を決めるのは国民投票であることに変わりはない。

 民主党は改正手続きよりも、どの条項を改めるかという内容の議論が先だと言う。だが、自民党などは既に具体的な改正方針を国民に示している。民主党こそ憲法改正について論議を尽くし、党としての見解を明らかにすべきだ。

 ◆必要な衆参の役割分担◆

 衆院と参院の役割を見直すことも、喫緊の課題である。

 衆参ねじれ国会の下で、「強すぎる参院《の存在がどれほど国政を停滞させてきたか、与野党とも痛感しているはずだ。

 解決策の一つが、59条2項の改正だ。参院が衆院と異なる議決をした法案は、再び衆院で「3分の2以上《の多数で可決すれば成立する、という現行の規定を「過半数《に改めればよい。再議決による法案成立が容易になり、衆院の優位性もより明確になる。

 自民党の憲法改正草案がこれに言及していないのは疑問だ。

 2000年に参院議長の私的諮問機関が、衆院での再議決要件緩和のほか、参院の首相指吊権の廃止など憲法改正も伴う改革案をまとめた。

 参院の権限を縮小し、政権から距離を置く。今でも十分、検討に値する。

 「1票の格差《是正のための選挙制度改革も、衆参の制度を同時に見直すべきだろう。

 衆院と参院がどういう機能を分担すればよいか。望ましい政権を形成するためには、どう民意を集約するか。そうした観点から選挙制度を検討する必要がある。

 今年の憲法記念日は、先の衆院選での「1票の格差《を巡る訴訟で高裁による「違憲《判決が相次いだ直後に迎えることになった。秋にも最高裁が判断を示す。

 ここに至った以上、立法府として最低限、0増5減の区割り法案を成立させるのが筋である。

 ◆定数削減競争は避けよ◆

 民主党など各党は国会議員も「身を切る改革《が必要だと主張し、定数削減を競っている。これは改革を装ったポピュリズム(大衆迎合)と言うほかない。

 日本は、人口当たりの国会議員数では国際比較でも決して多くはない。国会議員の人件費を減らしても財政削減効果は限定的だ。かえって立法機能が低下しよう。身を切るなら、歳費や政党助成金をカットすればよいではないか。

 憲法に関しては、緊急事態対処や環境権などを規定すべきだとの主張もある。重要な視点だ。

 参院選に向け、各党とも積極的に論戦を展開してもらいたい。

(2013年5月3日01時05分 読売新聞)