産経新聞社説

統治機構と憲法 間接選挙で参院再生を 「地域主権《は国の統一そぐ

2013/5/3付

 憲法施行66年を迎えた。ようやく日本人自らの手で憲法を改正できる状況がみえてきた。

 自民党や日本維新の会などが、改憲の発議要件を衆参両院の「3分の2以上《から「過半数《に緩和する憲法96条改正を打ち出し、今夏の参院選の主要な争点になるからだ。

 改憲が現実の政治日程にのぼり、国民投票が行われる。そのとき、羅針盤になるのが現行憲法の問題点を摘出し、新たな国家像として「独立自存の道義国家《を打ち出した本紙の「国民の憲法《要綱である。

 ≪知事による推薦も検討≫

 要綱は、国会や内閣など国家の統治機構に対しても抜本的な見直しを提起した。

 とりわけ衆参両院のねじれ現象の下で重要法案の成立が阻まれるなどの「決められない政治《を打破することを主眼に二院制のあり方にメスを入れたのが特徴だ。

 具体的には第60条で「参議院は、直接選挙および間接選挙によって選出される議員で組織する《と、参院に間接選挙を導入することを明示した。

 間接選挙とは、有権者が議員を直接、選ぶのではなく、まず選挙人を選び、選挙人が議員を選挙する仕組みだ。

 参院創設時にも間接選挙や衆院や地方議会が参院議員を選ぶ「複選制《、職能団体による「推薦制《などが検討されたが「公選《や「平等《などに反する疑いがあるとして採用されなかった。

 参院は結局、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する《という現行憲法43条が立ちはだかった結果、「良識の府《とされた独自色は失われ、党派がはびこり、衆院の「カーボンコピー《と揶揄(やゆ)される存在になってしまった。

 間接選挙は、ここに大きな風穴をあける。中長期的な政策判断ができ、専門的分野に詳しい人材を参院に集めることができる。間接選挙制をとるドイツの連邦参議院は各州政府の代表者で構成される。代表者とは州議会から選ばれた州の首相や閣僚だ。

 今回、国民の憲法起草委員会からは、知事が間接選挙の候補者を推薦する案や、地方議員らが投票で選出するなどの考えが示された。英知を集めた制度を構築していきたい。直接選挙も、各県から2人ずつ選ぶなどの案が出た。衆参ともに選挙区と比例代表という似通った仕組みを変えなければならない。

 参院の独自性も明確にした。行政監視院の設置や国会同意人事を参院で先に審議するなどだ。

 一方で衆院の優越も強めた。衆院可決後、参院で否決された法案を衆院で再議決する際のハードルを、現行の3分の2から過半数に下げた。「決める政治《の確立に役立つ。


 ≪政策本位の会期原則に≫

 国会改革では、会期をめぐるルールを転換させた。衆院議員の任期を「立法期《とし、「立法期中に議決に至らなかった案件は、次の立法期に継続しない《(第65条)ことを打ち出した。

 国会法には「会期上継続の原則《があり、重要法案を廃案に追い込みたい野党は国会ごとに引き延ばし戦術を展開する。政策本位とはかけ離れた政治の機能上全を断ち切ることにした。

 地方自治では、地方自治体に対して「国の統一性の保持に努め、国と協力しなければならない《(第107条)ことを求めた。地方に主権の一部を与えれば国家の統一性は失われる。民主党などが使い出した「地域主権《という考え方を否定した。与野党が推進しようとしている道州制については、市町村を基礎としたうえで「これを包摂する広域地方自治体《(第106条)を認めることで対処することにした。

 最高裁判事を罷免するかどうかを示す国民審査制度は形骸化しているため廃止する。それに伴い、現実離れした司法判断や検察の暴走などの事態を防ぐため、国民の司法参画の機会を保障する規定を置いた(第52条)。

 「軍《を保持することに伴う軍事裁判所の設置(第90条)は、文民統制の確保や軍の規律維持、軍事機密の保護などが目的だ。

 現行憲法は特別裁判所を認めておらず、自衛官は一般の裁判所で裁かれる。軍人を律する軍刑法も課題だ。いびつな国のかたちの解消は急務である。