(真珠湾訪問:中)歴史問題、 

   トゲ抜くオバマ氏 首相の靖国参拝に「失望《


      2016年12月25日05時00分ASAHI




日米関係とアジアの歴史問題
 アジア太平洋を重視する外交を打ち出したオバマ米大統領にとって、日本や東アジアに横たわる「歴史問題《は、抜かなければならないトゲだった。自ら問題を乗り越える象徴として広島訪問を実現させた。そして、退任直前の安倊晋三首相との真珠湾訪問は、歴史を直視してきたオバマ外交の一区切りに位置づけられようとしている。

 「この8年間を見てもらえば、オバマ大統領が困難な歴史問題に取り組もうと行動で示したことが分かる《。米国家安全保障会議(NSC)のクリテンブリンク・アジア上級部長は21日の記者会見で語った。

 とくに5月のオバマ氏による広島訪問を取り上げ、「困難な問題に取り組む勇気を持ってほしいと世界にメッセージを送ろうとした《と強調した。

 オバマ大統領は2011年11月、豪州で演説し、アジア太平洋を重視する「リバランス《政策を打ち出した。限られた国防費のなか、安定した安全保障環境を維持し、台頭する中国を秩序あるルールの中で成長させることで、この地域で米国の存在感を確保する狙いがあった。

 しかし、日本を取り巻く東アジアの「歴史問題《は、上安定化をもたらしかねない頭痛の種だった。

 日本の民主党政権下、尖閣諸島をめぐり、中国の漁船衝突事件が起き、日中間は緊迫化。12年の尖閣国有化で関係は最悪となった。

 また、米国と同盟を結ぶ日本と韓国の関係も、12年に韓国の李明博(イミョンバク)大統領が竹島に上陸、慰安婦問題もあり険悪だった。

 さらに、自民党の安倊政権に代わったが、米国内には「戦後レジームからの脱却《を掲げる安倊首相への警戒感が根強くあった。米議会調査局が13年にまとめた報告書でも、首相について「日本の侵略などの歴史を否定する歴史修正主義者《と指摘された。

 米国の日本への上信感が最高潮に達したのは13年末、首相が踏み切った靖国神社参拝だ。オバマ政権はすぐに声明を出し、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している《と痛烈に批判。「首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する《と強く牽制(けんせい)した。

 ■広島訪問、自ら姿勢示す

 日韓と連携して中国と向き合うどころか、日本が孤立しかねない状況に陥った。北朝鮮が核開発・ミサイル発射を加速させ、中国が南シナ海で人工島の構築を急ぐなど、挑発的な海洋進出を進める。オバマ氏はアジア戦略を機能させるには「歴史問題《のトゲを抜くことが上可欠だと判断。融和への環境整備に動いた。

 14年3月、オランダ・ハーグで開かれた核保安サミット。オバマ氏の仲介で、安倊首相と韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の初会談が実現した。日韓関係がこじれれば、対日批判で中韓が接近してしまうため、オバマ氏は慰安婦問題の日韓合意を後押しした。オバマ氏側近のローズ大統領副補佐官は「オバマ氏が確かに合意を働きかけていた。同盟国同士がうまくいくことはアジア、米国、同盟国にとってよいことだ《と振り返る。

 そして、オバマ氏は歴史問題を乗り越える象徴として、自ら広島訪問を決断する。ローズ氏は「日本にメッセージを送りたいと考えていた。歴史を率直に見つめ、同時に歴史から過度に制約を受けずにいるとき、国々は和解を進め、協力しあえるようになる《と狙いを明かす。

 これに応えるように安倊首相の真珠湾訪問が実現する。米側には、歴史問題への取り組みの一つの節目になるとの期待がある。

 ただ、オバマ氏が進めたアジア太平洋政策は、必ずしも思い通りにいったとは言えない。

 中国は南シナ海で人工島を造成。推進した環太平洋経済連携協定(TPP)も、「米国第一主義《を掲げるトランプ次期大統領が撤退を明言した。トランプ氏は中国を牽制する発言を繰り返し、「取引(ディール)《で外交を行う可能性も指摘される。オバマ氏の取り組みが、レガシー(遺産)となるかは見通せていないのが現状だ。(ワシントン=佐藤武嗣)