日中韓対立と協力の将来 

   朴喆 煕  (ソウル大学国際大学院教授)


     2015.09.13 東京新聞

 将来、歴史家はここ数年間の東アジアの状況を勢力変動の中で新しい均衡点を模索した時期と規定するだろう。東西陣営の対立が明瞭であった冷戦期とは違い、東アジアでも国境を超えた経済の相互依存関係の進展など複雑な国家関係が顕著になっている。冷戦終結後には、東アジアでも多国間協調主義の枠組みづくりが試みられた時期もあった。しかし中国の浮上が著しくなり、中国の攻勢的海洋戦略が浮き彫りになると、地域における対立と協力の構図は変容し始めた。その中で、いくつかの将来像が同時に見えてきた。

 まず最初に、日本と中国の全面対立を念頭に置く「新冷戦型《秩序の模索である。経済力にとどまらず軍事力も増す中国に対し、勢力拡張のけん制と東アジアにおける影響力拡大抑止のための確固たる安全保障の連合をつくる動きである。日米および米韓同盟の強化と連携の深化を進める戦略である。中国に対する力の優位を確保することが目的であるが、韓国は安全保障の領域で日米と協力する気構えだが、日中対立の激化は望ましいと思っていない。

 二つめには、韓国を中国の方に引き寄せ、中韓対日米という「連合修正型《の構図を描く中国の狙いも見え隠れする。日米同盟は強固で付け入るすきはなく、米韓同盟も北朝鮮問題が存在する限り弱まる要素はないと見て、北朝鮮の挑発的動きにくぎを刺しながら日韓の溝を広げる中国の戦略である。

 韓国は日米と安保協力関係にありながら、日本の歴史修正主義をけん制する上安定な形となる。しかし、米国との軍事同盟を抱える韓国が、全ての領域において中国との協力関係を構築・維持するのは現実的ではない。この構図は、韓国にとって米国との同盟関係をはかりにかけるという危険な賭けに出ることを意味する。北朝鮮との軍事対決が続く限り、韓国は米国から離れることはない。

 三つめに、日中韓が全面的に協力関係を結び、東アジア共同体の構築を目指す「地域連帯型《がある。経済的相互依存を深めながら多国的安保体制をつくり上げ、地域全体の安定を促進させる仕組みである。ただ、こういう枠組みは、長期的理想であって、現時点では困難と思われる。中国が勢力拡張策を放棄し、既存の国際秩序を受け入れる必要があるが、勢いを増す中国は大国志向であり、隣国と同等の立場で協調的秩序づくりに参加するとは期待しにくい。

 最後は、日中韓がそれぞれの制限的対立の中で危機発生防止のメカニズムを定着させ、対立の要素を管理しながら重層的に協力を進める「複合部分連合型《の考え方である。この仕組みの下では問題ごとに連合相手を取り換えるなど、特定の組み合わせにこだわる必要がない。例えば、軍事面では日米韓が連携し、環境、エネルギー、食の安全などの分野では日中韓で今以上の協力的枠組みを進める。しかし、この戦略を実現するためには相手国を同等の主権国として認め、協力の習慣を育てる知恵が必要である。

 現在の日中韓は、決定的な対立を回避しながら徐々に機能的な協力体制確立に向けた準備を進める時期にある。十月末から十一月初めの開催が予想されている日中韓首脳会談が、東アジア秩序の新しい出発点になることを祈りたい。