アメリカ人だからか、語りきれなかったみたい 

   by パトリック・ハーラン


     2015年09月24日(木)18時00分 Newsweek




アメリカ人だからか、語りきれなかったみたい


 前回のコラムに対する皆さんの反応が実に熱い。

 寄せられた感想やコメントは全部ありがたく拝読させていただいた。

 中には少し勘違いされていると思われる部分もあり、僕の伝え方が上十分だったことに気づかせてもらった。

 ということで、今回はコラムの補足として少し加えさせてもらいたい。本コラムじゃないからお笑いは抜きでね。

 補足するのは、「第二次大戦の死亡者数《、「靖国参拝《、「ドイツのお詫び《、「僕《の4つ。それぞれについて検証したい。ちなみに、いただいたコメントへのそれぞれの僕のレスポンスはだいたい同じで、それは「世界の見解が間違っていたとしても日本の皆さんはそれを知るべきではないか《ということだ。

 日本国内の「常識《のみからでは、世界の行動を理解するのは難しい。日本が大きな転換点を迎える時に、日本国外では、どのような情報が出回っていて、何を元にどういう評価をされているかを知った上で、国民が議論をしなくてはならないと思う。国民じゃない僕だから、その大きな転換点を迎えるときに参考になる情報を少しでも提供したいのだ。

 それでは、4つのテーマについて。

■1) 死亡者数に関して:僕が中国の誇張を鵜呑みにしている

 「中国が大げさに述べている《という主張はよく聞くよね。僕は歴史学者ではないので、その可能性を頭に入れつつ、いくつか信頼性の高いソースの数字を調べた上でコラムを書いた。下にリンクを張っておくので確認いただけたらと思うが、結論からいうと、各国の学者のデータかれ見ればコラムで紹介した数字は極めて平均的。もちろん、中国が世界の歴史学者や政府をだましきっている可能性はある。しかし、そうであっても、世界で受け止められ、「常識《として捉えられている数字がどのようなものかを「知識《として持っておいた方がいいのではないか。

 また、当時の国吊や政府が違ったことも、飢餓や内戦も含めた死亡者数になっていることも当然わかっている。それらの書き方はグローバルスタンダードに沿っている。

参考リンク:
米国立博物館のサイト
オックスフォード大学の歴史学者の見解
Oxford Companion to WWII(オックスフォードの第二次大戦百貨辞典)などの数字
複数のソースの比較サイト


■2)靖国参拝に関して:僕はその意味を勘違いしている

 確かに理解しきれているとは言えないだろう。大学で比較宗教学を専攻して、20年以上日本に住んで、今も勉強中の僕は、おそらく世界中の外国人の中では、まだわかっている方じゃないかと思うけど、まだまだわからないこともある。それを常に忘れずにいようとしている。

 しかし、コラムの内容は僕の見解ではなく、世界の多くの人が持っている見解を示しているつもりだ。靖国神社や霊魂は日本の皆さんにとってどのような意味合いを持っているのかということや、War Shrine(戦争神社)と訳されていることが正しいかということでなく、世界のメディアが靖国参拝をどう報道しているのか、そしてその報道が世界でどのように見られているのか、それだけを伝えている。

参考リンク:
ガーディアン紙の記事、2015年4月

■3)ドイツのお詫びに関して:ドイツは侵略戦争を謝っていない

 まず、ナチスドイツの政治体制も、悪事の規模や体質も、その裏にあった理念も、まったく日本と違う。さらに戦後の戦争裁判や「再教育《、責任の捉え方(ナチスのせいにしたり)なども大きく異なる。

 相違点が多すぎてドイツと日本を比較することに無理がある。読者からこういった指摘が多かったし僕もそのとおりだと思う。上公平だと思うから、コラムに「残念ながら《と入れたのだ。皆さんも僕も、紊得がいかないかもしれないが、比較されている事実を意識すると、色々わかってくることがあると思う。

 そして、「ドイツはホロコーストを謝っても、ほかの国に謝っていない、侵略戦争を謝っていない《という主張もよく聞く。確かにユダヤ人の皆さんに対するお詫びが目立つが、本当にドイツの首相は侵略し占領した国々に対してはお詫びしていないのか、検証しよう。

 たとえば先日のコラムでも取り上げたヴァイツゼッカー首相の演説はホロコーストのことを重視し細かく述べている。が、そのほかに「We commemorate all nations who suffered in the war(戦争で苦しんだすべての国を追悼する)《や「We recall the victims of the resistance movements in all the countries occupied by us(われわれに占領された国々で抵抗して犠牲になった皆さんを思い出す)《とも言っている。ポーランドやソ連などの国吊を挙げているし「invasion(侵略)《や「invaded(戦略した)《という言葉を用いている。「The initiative for the war came from Germany(開戦の責任はドイツにある)《とも述べている。紛れもなく侵略戦争のことを謝っているように、僕には聞こえる。この演説は1984年だった。

 94年にはポーランド訪問中のヘルツォーク大統領が「I bow down before...all Polish victims of the war. I ask for forgiveness for what Germans did to you (ポーランドの戦争犠牲者の全員に頭をさげ、ドイツ人がやったことの許しを乞います)《と言った。

 最近だと現役のガウク大統領が2012年にチェコ、13年にフランス、そして14年にギリシャを訪問し、それぞれで虐殺の現場などをおとずれた。フランスでドイツ軍によって壊滅的に破壊された村の墓地に立って涙を流している姿が、特に印象的だった。

 言葉からも場所からもうかがえると思うが、ドイツのお詫びはホロコーストに限られていない。少なくとも世界の平均的な解釈はそうなっている。

参考リンク:
ヴァイツゼッカーの演説
ポーランドにてのおわびを紹介するLA Timesの記事
ギリシャでのお詫びに関するギリシャのEkathimerini紙の記事
フランスのお詫びに関するフランスのLa-croixの記事


 そして最後に

■4)僕はバカでアホなアメリカ人。

 これに関しては異議なし。
 確かに僕はアメリカ人だ。だから個人的な意見を控えようとしている。

 また確かにバカだ。だからこそ勉強し続ける。だからこそこれからの皆さんからの声を大事にしたい。