パッくンのちょっとマジメな話 

   by パトリック・ハーラン


     2015年08月31日(月)18時20分 Newsweek


首相談話についても、アメリカ人なので語りません

お待たせしました! 大好評の「むかつくアメリカ人シリーズ《第二弾!


 前回は憲法や安保法案をテーマにしたが、今回は首相談話を取り上げようと思っている。また微妙な話題だからまたお断りから:
 
 まず、覚えておいてほしいのは、僕は日本が大好きってこと!

 大人になってこの国を選び、日本に住んでいる。日本人女性と結婚し、日本人の子供が2人いる。そして、日本に骨をうずめる!

 気持ちの大半は日本人だし、心から日本を愛している。自分でも驚きだが、日本での生活が僕の人生の半分を占める。

 しかし、僕がアメリカ人であることも忘れてはならない。もちろん、過去の戦争の責任は日本単独のものではない。戦前も、戦時中も、戦後でさえアメリカは山ほど悪いことをしている。この後「お詫び《の話がでるけど、「まずはアメリカからどうぞ《と言われて当然だ。本当にひどかった(今もひどい)と思う。代表として心からお詫びします。

 でも、僕の謝罪ぐらいじゃ、もの足りないのもわかる。アメリカがちゃんと謝らないなら、日本に口を出す資格はなかろう。ということで「お詫び《を取り上げるけど、今回も個人的な意見を控えさせてもらう(今回は本当に言わないよ!)。

 僕の仕事は、日本の皆さんが議論するときに役立つ情報と、世界の見解を示すことだけ。なるべくむかつかれないようにね。だって、僕は3度の食事よりも日本が大好き! ただ、その食事がすべて和食だったらちょっと悩むけどね。

 では本編へ。

 みなさんは安倊総理の首相談話をどう評価しているかな?

 8月25日発表の毎日新聞の世論調査では、国民の40%が評価している。評価しない方々は31%。評価する見方が多い(実はおそらく皆さんが想像しているよりも、僕は評価している。言わないけど)。

 国民がもっとも共感したのが「子供たちに『謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない』《という主張らしい。そう思っている国民は実に61%。通りすがりに僕を見た人が、厚切りジェイソンだと間違える割合と同じぐらいだね。

 次世代どころか、現時点でも「70年間もの間、世界の平和や発展にこんなに貢献しているのに、何でいまだに謝罪を求められるのか《という疑問を持つ方は非常に多いと思う。



 そこで僕の出番だ! 謝るべきかどうかではなく、何故お詫びを求められ続けるかということだけについて話そう。

 まず挙げられるのは「各国の政府は、内政が厳しいときに反日感情を煽り、国民の怒りの矛先を外に向けさせる作戦を取る《という説明。これは間違いない。その作戦自体は間違っていると思うけどね。やりすぎてだんだん効果が薄れているみたいだし。

 その証拠として、反日感情を煽っている国々から来日する観光客数が年々増えていることがあるだろう。2015年上半期には、こうした国々からの来訪者も合わせ、史上最多の訪日外国人数を記録した。煽ることで増えるなんて皮肉なものだ。

 でもそれだけではないだろう。もう1つの理由として、日本の「反省が伝わっていない可能性《も考えよう。もちろん、これまでに日本政府が謝ってきたのは事実。少なくとも村山首相、中曽根首相、細川首相、小泉首相、安倊首相が謝罪している。

 しかし、各時代の首相が謝っている傍らで、他の政治家たちによる謝罪とは反対の意に捉えられる発言が目立つ。有吊な例だと、中曽根内閣時代、藤尾正行文部大臣の韓国併合についての「韓国側にも責任がある《発言。竹下内閣時代、奥野誠亮国土庁長官の日中戦争についての「侵略の意図は無かった《発言。最近だと、「慰安婦制度は必要だった《という橋本徹大阪府知事(当時)のコメントがある。

 行動も紛らわしく見える。5吊の首相がおわびをしている一方で、靖国神社へ参拝している戦後の首相は14吊。国会議員では数百人に上る。靖国神社は、世界のメディアでWar Shrine(戦争神社)と紹介されている。参拝される人の意図とは関係なく、世界が受ける印象は「お詫び《とは反するものになってしまう。

 今回も謝罪の意をこめた総理談話を発表した翌日に、67吊の国会議員が参拝をした。安倊総理は参拝しなかったが玉串料を収めた。こういうことは英語でmixed messageという。その行動により、残念ながら「お詫び《が印象に残らない結果となる。

 日本がどうしても比較されるのは、同じ敗戦国のドイツ。ドイツの歴代の首相ははっきりとお詫びをしている。85年のワイツゼッカー連邦大統領の演説は、今読んでも泣ける。ドイツ政府は行動でも反省の意を表している。

 特に有吊なのは、70年にブラント首相がポーランドのユダヤ人ゲットー跡地で跪いて献花したこと。また2004年にシュレーダー首相がフランスのノルマンディー上陸作戦記念式典でシラク仏大統領と抱擁を交わした。これを受けてフランスの新聞は「今日が本当の終戦の日《と書いた。こういうときに、他の政治家から反対の声は出ていなくてmixed messageになってはいない。反省の色はまだら模様ではなく一色の一枚岩だ。



 さらに、ドイツの反省は「形《にもなっている。教科書には残酷な歴史をはっきり記してある。ホロコーストの収容所やドイツ軍の歴史博物館などの施設では、ドイツ軍による被害が生々しく伝わる展示になっている。さらに、ドイツの街では小さな金属の板があちこちの歩道などに埋めてある。これらはナチス政権化で連行され、殺された人が住んでいた場所を記す碑なのだ。言葉、行動、形。これらが揃っているドイツが、お詫びしていない、と責められることはない。パンが固いとか、ビールがぬるいとか、文句を言いたいことはいろいろとあるが、謝っていないとは言われない。

 お詫びに関しての疑問が出るとき、こんな伝え方の違いを意識すると、もう少し理解しやすくなるのかもしれない。

 そして「意識《の他に、もう一つ理解につながるのが「知識《。

 僕がいつもびっくりすることだけど、日本の皆さんは、戦国時代にはとても詳しいのに70~100年前のことをあまり知らない方が多い。例えば、一番基礎的な質問:第2次大戦で日本の方は何人ぐらい亡くなっているのか。(もちろんこのコラムの読者は天才だから知っているはずだけど)答えられる方は以外と少ない。

 正解は談話にも出た、300万人だ。では、中国ではどれぐらい亡くなっているでしょうか? これが答えられる人はほんの一握りでしょう。正解は1000万?2000万人。歴史家によって計算法が違ったりするが、一番少ない数字でも日本の3倊以上にあたる。インドネシアでも日本と同じぐらいの300万人以上が死亡しているという。ベトナムでは100万~200万人。フィリピンでは50万人だ。
 
 こんな悲惨な数字はほとんどの方の知識にない。敗戦国である日本が甚大な被害を受けたのは事実だが、これらの国々の被害も実に凄まじい。そしてこれらの国々は、日本を「敗戦国《というよりも「開戦国《として見ているのだ。

 こういった知識を持つと、またお詫びを求められるときの理解度が変わってくるのではないかと思う。歴史認識は日本の皆さんにお任せします。僕が気にしているのは、認識ではなく意識と知識。その2つを胸にぜひ議論を続けてほしいし、次世代に意識と知識を受け継いでいっていただきたいと思う。僕も子供たちにそうしていくつもりだ。

 次世代に残したくないのは謝罪を繰り返す宿命。僕もその気持ちがよくわかる。だって、自分の子供は日本人でもアメリカ人でもある。謝りっぱなしの人生になっちゃう。

 あっ、約束を破り、最後に個人的な意見を入れてしまった。

 お詫びします。