朝鮮半島情勢中国人学者、異例の提言

  中国は米韓との意思疎通が必要
  対北朝鮮政策「助ける《から「圧力《

  北京大国際関係学院  貢慶国院長


      2017.09.24 朝日新聞

 北朝鮮が核・ミサイル開発で挑発を続けるなか、金正恩政権崩壊をにらんだ中国人学者の異例の提言が議論を呼んでいる。中国の伝統的な北朝鮮友好政策の転換の兆しとの受け止めも広がる。提言をした北京大学国際関係学院の頁慶国院長に聞いた。 


 -------北朝鮮で戦争が起きる事態に備え、中国は米国や韓国と事前に意思疎通を図るべきだとの異例の提言をしました。なぜですか。

 中国は平和的解決を求めるが、制裁を受け、北朝鮮で経済的な動乱や権力闘争が起きる可能性がある。また、米国が予防的な攻撃をするかも
しれない。事前に準備し、関係国と意思疎通しなければならない。

 -------これまで中国は北朝鮮への配慮から、そうした協議を避けてきました。

 状況は変わった。中朝国境近くの核実験は中国にとって大きな脅威だ。日本や韓国の核兵器開発も促しかねない。また、北朝鮮が国際テロリストに核を売ったらどうなるのか。

 北朝鮮は中国の重大な安全保障上の利益を顧みず、核開発を進めている。これ以上配慮しなければならない必要がどこにあるのか。

 中国は北朝鮮を守ろうとしてきた。しかし、北朝鮮は核兵器以外、何も信じない。-----「それは違う。核を放棄すれば、安全が保障されるよう中国が各国を説得するかから《と話してきたが、彼らは聞き入れない。

 -----北朝鮮への制裁強化を中国は確実に実施しますか。

 当然、制裁には参加する。ただ、中国政府はとても心配している。過度の制裁は効果が期待できない。あくまでも制裁は北朝鮮を話し合いの場に戻すための手段に過ぎない。

 中国の対北朝鮮政策はすでに大きく変化している。過去において、中国の専門家が議論したのは「どこまで北朝鮮を助けるか《という問題だった。その後、議論は「北朝鮮を助けるべきかどうか《に変わり、今では「北朝鮮にどこまで圧力を加えるか《になった。

 圧力の結果、核を持った北朝鮮が中国に敵対的になるのを懸念する人もいるが、多くは核を持つ北朝鮮はそれだけで脅威なのだと考え始めている。


政策転換の流れ裏付け

 貢氏は中国外務省に政策提言をする立場にある学者で、政府への助言機関、全国政治協商会議の常務委員の一人。提言が英文サイトに掲載されたのは、北朝鮮が6回目の核実験をして間もない今月中旬だった。

 提言内容は、中国が北朝鮮を見捨てるとのメッセージになりかねない異例なものだ。北朝鮮への刺激を恐れる中国では、金体制崩壊を想定した議論自体が敏感なテーマだった。

 提言に対し、米国を利するだけだとの批判も中国では出ている。朝鮮戦争で多数の犠牲者を出した中国軍部などで、北朝鮮を守ることが中国の利益だとの考え方は根強い。

 ただ、実際には、中国が北朝鮮崩壊の可能性を予期したような動きを進めてきたのも事実だ。

 中朝国境の警備は2000年代半ばに武装警察から軍の部隊に代わった。国境近くの民家を移転させ、難民流入時の管理体制を整えているとの情報もある。

 中国の専門家の一人は、貢氏の提言内容は「党内で意外とは思われていない《と言い、特に昨年ごろから、国内の非公開の場で盛んにこうした議論が行われていたと明かす。北朝鮮の挑発行為の高まりを受け、今まで通りに北朝鮮を守ろうとする政策は、限界に来ているとの危機感が関係者の一部では強まっている。

 貢氏の提言は、こうした中国の対北朝鮮政策の水面下での変化を裏付けるものだ。北朝鮮の行動次第では今後、中国が政策転換に踏み込んでいく可能性もある。(北京=古谷浩一)

 ■貢氏の提言要旨
 朝鮮半島での戦争の兆しが強まっている。中国は、緊急事態に備え米韓との協議を始めるしかない。まず解決すべきは北朝鮮の核兵器を将来、誰が管理するかだ。米国は核上拡散の立場から、中国による管理に同意するだろう。危機が起きた時、北朝鮮の秩序を誰が維持するか。韓国軍か、国連平和維持軍(PKF)か。しかし、中国は米軍が38度線を越えることを望まないだろう。