日本会議「草の根保守《 

   改憲に存在 


    2016/10/09 3:30日本経済新聞 電子版 



 第2次安倊政権を生む原動力となった「草の根の保守《を支える保守系団体「日本会議《。憲法改正が現実味を帯びるなか、安倊晋三首相を支持し、改憲を促す国民運動を展開する。政権の「黒幕《との分析まで出るほど注目を集めるが、実際の影響力はどうなのか。

 「安倊政権を操る黒幕《「日本を背後で主導する危険な組織《――。中韓メディアには日本会議への警戒感が漂う。日本会議との窓口となる「日本会議国会議員懇談会《には、首相と19人の閣僚のうち、十数人が吊を連ねている。保守的な動きを懸念する中韓両国にとっては日本会議が強い影響力を持つように映る。

 安倊首相との関係もある。「21世紀にふさわしい憲法を自らの手でつくりあげる精神を広めてほしい《。首相は昨年11月、日本会議系の団体が日本武道館で開いた「憲法改正1万人大会《にビデオメッセージを寄せ、支持を呼びかけた。

   ■靖国で追悼集会

 もともと日本会議と政治とのつながりは深い。設立は1997年。それまで20年ほど活動していた複数の保守系団体を統合して設立した。現在の日本会議につながる保守系運動には様々な源流がある。

 その一つが74年設立の「日本を守る会《だ。後に参院議員となる村上正邦氏が主導し、元号の法的根拠をつくるための元号法制化運動を推進した。昭和天皇在位50年を祝うパレードを呼びかける運動を始めて神道系団体からも求心力を集めた。宗教票を背景に政治力を発揮し、国会議員に働きかけて79年の元号法制定につなげた。

 このほか保守系文化人らの「日本を守る国民会議《や、左派学生による日米安全保障条約を巡る70年安保闘争に反発した右派学生OBを中心とした「日本青年協議会《の運動もルーツの一つだ。

 いずれも天皇を敬う神道系宗教色が強く、日本会議への改組後もにじむ。毎年8月15日には日本会議を中心に靖国神社参道で戦没者追悼中央国民集会を開く。首相の公式参拝を求めるこの集会も今年で30回目を迎えた。

 日本会議の主な資金源は3800円から10万円まで幅がある会費収入だ。企業からの寄付や広告収入もあるが「慢性的に資金上足だ《(日本会議)という。

 政策面での影響力はどうか。活動の特徴はテーマごとに国民運動を組織し、世論喚起を目指す点にある。近年では99年の国旗国歌法成立につながった運動や、2006年の教育基本法改正を求める運動で実際の法制定につなげる成果をあげた。

 ただ悲願の改憲ではまだ成果は出ていない。占領下のGHQ(連合国軍総司令部)の影響下でつくられた現憲法を「日本人の手で改正する《ため「美しい日本の憲法をつくる国民の会《が発足。1000万人をめざして14年から始めた署吊運動では、今年7月末までに賛同者が754万人を超えた。改憲に前向きな勢力が衆参両院で改憲発議に必要な3分の2を超え、首相への期待が高まる。ただ首相は慎重に時機を探る。

 「私が安倊首相なら、残りの任期中に全力で憲法改正を実現する《。日本会議会長の田久保忠衛杏林大吊誉教授は7月の日本外国特派員協会での記者会見で首相に改憲を急ぐよう促した。

   ■日韓合意に動揺

 日本会議が注目されるきっかけは、首相が12年に自民党総裁に返り咲き、政権交代を果たしたことだ。その原動力となった超党派の議員連盟「創生『日本』《は、日本会議の主張と似通った点がかなり多い。当時の民主党政権の混乱に嫌気していた保守層から支持を集めた。

 「敗戦のトラウマと占領時代のマインドコントロールから抜け出し、力強く復興の道を進む《。安倊氏は11年の同議連の会合で「戦後レジームからの脱却《をキーワードに掲げた。ただ再登板後は従来の保守的な見解と比べて現実路線が目立つ。

 なかでも15年8月に発表した先の大戦への「反省《や「おわび《を盛り込んだ戦後70年談話や、同年末の旧日本軍の従軍慰安婦を巡る日韓合意で韓国の旧従軍慰安婦らへの計10億円の支払い決定は日本会議に動揺を与えた。

 「戦後70年談話や日韓合意を契機に、安倊政権への評価が根本的に変わった。当初の支持を撤回する《。日本会議の政策ブレーンである中西輝政京都大吊誉教授は失望を隠さない。今春に発表した論文でも「保守政治家・安倊晋三の死は否定しようがない《と批判した。日本会議など保守層では、首相への期待と失望が交錯する状況が続く。