選挙制度と国民投票法  フェアな体制整えて

    中島京子 作家


    2017.10.29 毎日新聞




 選挙が終わった。

 今回実施された衆議院議員選挙だが、小選挙区では自民党は48%の得票率で75%の議席を獲得する結果に終わった。

 そもそも2大政党制をイメージして、1対1の構図を作る目的で導入された制度なので、野党が乱立してしまうと、与党批判票は分散し、今回のような結果になる。だから、なにがなんでも野党はひとかたまりの団子になるべきだという考えで、「希望の党《のようなものも生まれる。

 しかし、現政権よりも右派の主張をする政治家から、社会民主主義的な発想の政治家までがいっしょに「団子《になるというのは、有権者にも理解しがたいし、実際、そういう「ひとかたまり《はぜんぜんできなかった。

 政策や主張の違う政治家が同じ党である必要はないが、民意を反映しない選挙制度は、いい制度ではない。一方で比例代表のほうは、有権者の意思を反映していると言えそうだ。

 フランスの国民議会も、1区1人選出の小選挙区制だが、日本と違うのは「2回投票制《という制度があることだ。有効投票数の過半数、かつ登録有権者の4分の1以上の票を得た候補がいない場合は、登録有権者の8分の1以上の票を得た候補による決選投票を、次の週に行う。1回目は自分が最も共感する候補に票を投じ、その結果を見てから、2回目は上位2人か3人のうち、議員にしたい人に投票する。あるいは、2回目は、議員になってほしくない候補の対立候補に票を入れる。日本の選挙より合理的ではないだろうか。

 圧勝した自民党が議席を多く持っている以上、選挙制度の改革は難しいだろうか。私は、自民党議員も今回の選挙ではヒヤッとしたのではないかと想像する。もしも「希望の党《が「排除《なしで「団子《化に成功していたら、政権交代は成立していたかもしれないからだ。

 ここで私たちは、ほんとうに、一時的なブームや風で政権がころころひっくり返る選挙制度がいいのかどうか、考える必要がある。少なくとも私は、万が一「希望の党《がひとかたまりになったとして、それが一気に政権を奪取したら、逆にとても怖いと感じただろう。

 次の国会でぜひ審議してほしいのは、「選挙制度改革《である。そしてもう一つ、早急に議論してほしいのは、「国民投票法の改正《である。

 以前にもこのコラムで書いたことがあるけれども、現在の「国民投票法《は、とても「法《とは言えないようなお粗末さだ。

 次の国会から、安倊晋三首相は積極的に憲法改正を進めるつもりであるらしい。けれど、改憲を最終的に判断するのは国民投票ということになっている。でも、このだいじな国民投票には、有効投票率の規定がない。

 つまり、たとえば投票率が50%だった場合、その半分の25%超の賛成で、改憲が可能になる。有権者の25%の支持で、国の最高法規が変わってしまうというのは、大問題ではないだろうか。少なくとも、投票率が8割以上でないと投票は成立しない、というような規定が必要だ。

 それから、「国民投票法《には、公職選挙法にあるような、広報活動に関する規定がない。だから、資金力のある政党や団体などは、テレビCMや新聞雑誌広告の打ち放題なのだそうだ。衆院選投票日当日、安倊首相の写真のついた自民党の広告が主要な新聞各紙に掲載されて、私は目を疑ったが、こんな公職選挙法違反ぎりぎりのことまでするなら、規制のない改憲関連の広告は、垂れ流されるだろう。有権者は当然、それに引きずられる。

 だから、そんなことになる前に、「国民投票法《をきちんと整えてほしい。フェアな投票ができる体制が整うまでは、改憲論議に応じない姿勢を、とくに野党には貫いていただきたい。それをしない政党、政治家は、与野党間わず、改憲派護憲派を問わず、信用できない。国民をだまして憲法を変えてしまおうという危険な意図が透けてみえるからだ。