(花まる先生 公開授業)

   長唄、音の動き描いて挑戦 

    ■千葉市立真砂中学校 飯島賢二さん(47歳)


      2017年6月4日05時00分 朝日新聞



 飯島先生はかつて、約200人の中2にアンケートをした。

 Q よく聴く音楽ジャンルは?

 A Jポップ84%、Kポップ5%、クラシック5%、ロック1%、日本の伝統音楽0%

 Q 日本の伝統芸能とは?

 A 歌舞伎43%、能13%、文楽3%、狂言1%、わからない40%

 和楽器演奏は1998年の中学の学習指導要領改訂で必修化された。2008年の改訂では民謡・長唄の歌唱も明記され、小学校でも和楽器の鑑賞が盛り込まれた。

 「でもやっぱり邦楽は身近じゃない。東京五輪が迫り、急速なグローバル化で外国人との交流も多くなるいま、学校で触れさせたい《と先生は思う。音大の声楽科出身。西洋音楽中心に学んできたため、「まず自分が《と自ら大学で邦楽を学び、授業を模索する。

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 この日は、長唄「勧進帳《を唄(うた)う授業。音楽室に入ってきた30人の中2は正座し、カーペット敷きの床に手をついてあいさつをした。飯島先生の邦楽の授業はこうして始まる。生徒たちの前のボードには、先生がパソコンで自作した「図形楽譜《が貼られている。

 長唄は、唄い手によって節回しが異なる部分がある。先生が、プロが使う伝統的な譜面の一つを見せた。縦書きされた「詞章(ししょう)《の横に、音の高低や長さが数字や記号で示されている。「日本の楽譜は難しいね《と先生。「図形楽譜《では分かりやすくするため、詞章を横書きにし、音の高低や長短は段差をつけた帯状の図で表した。

 前回は長唄を鑑賞し、生徒たちが聴いた音を、図形楽譜の中に「旋律線《として描いた。音を「見える《ようにすることで、理解しようという試みだ。

 今回はDVD「音楽教員のための実践長唄入門《の映像に合わせて、全員で唄う。

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 ♯これやこの ゆくもかえるもわかれては しるもしらぬも おおさかのやまかくす

 「小倉百人一首《の蝉丸の和歌を引用した勧進帳の詞章。何度か唄うと手でひざを打ってリズムを取る子が出た。手拍子ではない。

 続いて、子どもたちが特徴的と思った点の一覧を先生が見せた。

 【声の出し方】い・背筋を伸ばし、おなかから大きな声を出す▽ろ・合唱とは違う声で、高いところも地声で張る▽は・のどの奥から声を出し、あまり口を開けない

 【唄い方】に・声を伸ばしている途中で音程が変わる▽ほ・音を揺らしている、波線のよう▽へ・節の終わりに音程が変わっていた

 用語も教える。「来るか~、あ~、あ、あ~、あ《のように最後の母音が引き伸ばされる「産み字《、抑揚の「節回し《、「語呂《。「長唄ならではの音楽表現を工夫して欲しい《と伝えた。

 生徒たちはソプラノ、アルト、テノール、バスの4チームに分かれて【声の出し方】【唄い方】の中から1点ずつを選んで意識しながら、詞章の好きな一節を究めることになった。各チームはボードに図形楽譜を貼り、旋律線を描く。リーダーが指でなぞりながら、DVDに合わせて練習した。

 「♯これやこの《を選んだソプラノ。「最後、唄い尻をもっと下げた方がいい《と一人が意見をいい、旋律線を下げた。

 「♯ゆくもかえるもわかれては《を選んだアルトに先生が近寄る。「よく聴いて。裏間といって、かぁ、えぇ、るぅ、もぉ、と裏ビートみたいに遅れて唄うよ《

 声を高くはる「♯おおさかのやまかくす《を選んだバスの男子たちは真っ赤な顔で声を張り上げ、周囲も自分たちも大笑い。

 約20分のチーム練習の後、発表した。「音痴はいない。どの子も美しく歌えるのが日本の歌です。懐が深いね《と先生は笑う。

 授業後の休み時間。校庭から勧進帳の「鼻唄《が聞こえてきた。

 (宮坂麻子)

 ■(はってん はっけん)「和《の響き知り、邦楽の深い魅力伝えられる人に

 一本締めの「よーおっ!《という間の取り方は、外国人には難しいそうですが、日本人であれば自然に身についています。でも、グローバルな時代に生きる子どもたちは、伝統音楽の説明もできなくてはやっていけません。

 西洋音楽を中心に学んだ私も、邦楽を学んで驚いたことが多くあります。例えば合唱は大きく口を開けますが、邦楽では口の中を見せることははしたない。今回はひざ頭をたたきましたが、雅楽はひざの外側をたたいて音をためる。

 3年生では、能「安宅(あたか)《の謡(うたい)を学びます。長唄「勧進帳《と同じ物語で、共通する言葉の部分を比較してみます。箏(そう)(琴)は、平調子と、西洋音階に調律した箏の両方で「さくらさくら《を弾かせてどちらがいいか意見交換します。

 私自身が学んでみて、日本の伝統音楽の深さを感じました。「和の響き《や「懐の深さ《も子どもに伝えたい。世界の伝統音楽と同様、邦楽もなくしてはならない大切なものです。(談)