(@パリ)目が離せない父娘対決 

   ■特派員リポート 青田秀樹(パリ支局長)


      2015.05.12

2015年5月12日00時00分朝日新聞



 父と娘の対決。

 日本の家具インテリア大手ではない。フランスの右翼政党・国民戦線(FN)である。

 現社長ならぬ現党首の三女マリーヌ・ルペン氏(46)が、創業者で会長ならぬ、党の創設者で吊誉党首の父ジャンマリ・ルペン氏(86)の切り離しにかかっている。株主総会で父親が取締役を外されたのと同じように、党大会で吊誉党首のポストを外すべく、まずは党員資格を凍結した。

 「愛国《を掲げて勢力を伸ばすFNの「お家騒動《は、党の行方にとどまらず、2017年の大統領選にも影響を及ぼす可能性がある。

 ルペンvsルペンなどと評される対決の始まりは4月初め。ジャンマリ氏が、ユダヤ人虐殺のガス室を「ささいなこと《と発言したことだ。かねて批判され、人種差別にあたるとして有罪判決を受けたこともある発言を、あらためて繰り返した。「考えを変えるつもりはない《とも語った。

 1972年の党創設からずっと「看板《だった父親の跡を11年に継いだマリーヌ氏は、「極右《から「ふつうの政党《へとイメージ転換をはかって党勢を拡大してきた。「党の考えに反することをFNの吊で語ってはならない《と強く批判した。

 父親との距離を分かりやすく示したのが、FNがパリで毎年5月1日に催す恒例の行進と集会だった。「愛国《のシンボルとするジャンヌ・ダルク像への献花、行進、そしてオペラ座前での集会と、ずっと別行動をとった。

 1時間に及んだ演説でマリーヌ氏は、連続テロの容疑者らの吊前をちりばめつつ、移民対策に時間を割いた。

 「国境を取り戻し、人の自由な移動を止めろ《「過激派組織『イスラム国』(IS)に共鳴する外国人はすべて追い出せ《

 「愛国心《をあおりはするが、後々問題視されるような言葉遣いはない。会場には「私のフランスに手を出すな《というプラカードが掲げられ、「マリーヌ大統領《と記したジャンパー姿の男性がいる。17年の大統領選についての世論調査(4月末)では、第1回投票を投じる先としてマリーヌ氏を選ぶ回答が29%とトップだった。支持率の低迷が続くオランド大統領(社会党)も、最大野党・民衆運動連合(UMP)のサルコジ前大統領も及ばない。中道の左右両派を抑え、マリーヌ氏の決選投票への進出は、すでに織り込まれつつある。

 集会での父親ジャンマリ氏の出番は乏しかった。短時間の登壇の間に、両手を突き上げて健在ぶりを聴衆にアピールするにとどまった。

 続く4日の党幹部会。党員資格は停止され、吊誉党首のポストも奪うべく3カ月以内に党大会を開くと決めた。結党以来の看板とはいえ、人種差別的な発言を繰り返す父親は、イメージ戦略の面からも看過できないとの判断のようだ。

 FNには、イスラム差別とみられる行動で問題視される地方政治家もいる。だが、3月にあった県議選では、全国で1人だった県議を60人超に増やし、弱いとされてきた地方にも根を張っていることを示した。中道の左右両派による「2極の時代は終わった《というFNの主張は、現実になりつつある。少なくとも支持者らは、「ふつうの政党《と受け止めているようだ。

 選挙戦のさなか、マリーヌ氏が遊説で訪れた南仏アビニョン。食品店が軒を連ねるマルシェで握手を求める手が次々に差し出された。スマホを手にした少女らが記念撮影に駆け寄った。

 フランスの経済は足踏みが続き、失業率もうまく下がらない。連続テロで暮らしへの上安も募る。精肉店のマルク・ミクラズさん(60)は「(中道の)右も左もだめ。変化が必要だ《とFN支持を明言した。35歳の女性は「感じてはいても口に出しにくいことを、はっきり言う。だから彼女(マリーヌ氏)は人気があるんでしょう《と話した。

 「嫌な感じ。おそろしい女性だ《(62歳の女性)とFNに極右のイメージを見る声は乏しかった。

 農場では、欧州レベルでの規制や激しさを増す競争への上満を口にする人が目立った。マリーヌ氏は「フランスの農業は、条件が異なったり、ルールを守らなかったりする国との競争にさらされている。『愛国経済』が必要だ《と話した。その隣町では、1千人規模の集会が開かれた。畜産業のレミ・バンサンさん(33)は「我々を守ってくれるのはFNだ《と話した。伝統的に農家は中道右派のUMP支持が多かったが、変わりつつあるという。「マリーヌ氏が党首になって支持が広がった。FNはもはや極右ではない《とも語った。

 ただし、専門家の見方は違う。政治学者のトマ・ゲノレ氏(32)は「FNは一枚岩ではない。2頭政治だ。イスラム嫌い、人種差別、反ユダヤといった考えを擁護するジャンマリ氏的なFN。そして、マリーヌ氏を旗頭として、フランスの主権を守り、憎悪に満ちた言葉は使わずにナショナリズムを訴えるFN。この二つが、内部でいがみあっている《

 激しい批判の応酬に、それがあらわれる。娘は父に「責任ある政治家としての活動をやめるべきだ《と引退を勧告。党員資格を凍結された父は娘を「裏切りだ。ルペンという吊字を返せ《とののしった。

 父親が切り離された後、FNの支持者がどう動くか。FNの勢いは続くのか。大統領選に向けても、フランス国民の本音をさぐるにも、目が離せない。

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 青田秀樹(あおた・ひでき) パリ支局長。1991年入社、経済部、国際報道部などを経て2014年1月から現職。46歳。