■現代語訳 戦陣訓

  知識の殿堂 fujimoto_yasuhisa


      平成17年一月二十日 創設
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そもそも戦陣というところは、天皇陛下のご命令をもととして、皇軍の皇軍たる真価を現し、攻撃すれば必ず取り、戦闘すれば必ず勝ち、広く八紘一宇のご聖旨を世界に行き渡らせ、敵軍に、天皇陛下のご威光を仰がせて、その尊さを深く心に刻みつけさせる場所である。だから戦陣にある者は、十分にわが大日本帝国の、世界人類の幸福を増やさねばならぬという、尊い役目を会得して、皇軍の軍人として皇道を顕現するためにふみ行わねばならぬ、正しい道をしっかりと保ち、わが国の威光と恩徳とを、広く世界に揚げ現すように努めねばならない。
思うに、軍人精神の根本となる道は、恐れ多くも軍人にお下しになった勅諭の中に、はっきりとお示しくださっている。そして戦闘や訓練などについて、よりどころとせねばならない大切な点は、また操典や要務令などの綱領に教え示されている。ところが戦陣の様子や事情というものは、また格別な点があって、どうかすると目先の事柄に気を取られて、大切な根本を忘れ、ひょっとするとその行いが、軍人としての義務に背くようなことがないとは限らない。十分に反省し気をつけねばならぬことではないか。そこで、これまでの戦陣における経験から考えて、常に戦陣で勅諭のご聖旨を頂いて、十分にその大御心に添い奉る行いができるように、いちいち実際の事柄について戦陣での行いのよりどころを教え、そして皇軍の将兵が、八紘一宇のご聖旨を世界に行き渡らすために守り行う道徳を、一層高いものにしようと思う。これがつまりこの戦陣訓本来の趣旨とするところである。

本訓 その一

第一 皇国

大日本帝国は、天照大神以来相受けて代々天皇がお治めになっている国である。天地とともに連綿と続いて窮まりのない皇統をお継ぎになっている天皇陛下が上においでになり、天照大神以来変わることのない国家統治のご方針を受け継いで、永遠にこの国をお治めになっているのである。天皇陛下の厚いお恵みは、全ての国民、誰一人これを頂かない者はなく天皇陛下の聖なる徳は、世界中に照り輝いている。この尊くありがたい天皇陛下を上に頂くわれわれ国民もまた、先祖代々、忠・孝・勇・武の徳を受け継いで天皇陛下のみ国日本の道義を、広く世界に揚げ現して、八紘一宇の大御業を助け奉り、天皇陛下と国民とが一体となって、今日のように国の勢いを盛んにしたのである。
戦陣にある将兵は、よくこの万国に比類のないわが国体の根本の意義を十分自分のものとして、しっかりとして動くことのない信念を堅く持ち、断じてわが皇国を守るところの重大任務を成し遂げることに努めねばならない。

第二 皇軍

皇軍は天皇陛下おん自ら率いられて、神武の精神を身をもって示し、このことによって、皇国の威光と恩徳とを世界に揚げ現し、皇室のお栄えをお助け申し上げることを任務とするものである。
常に天皇陛下の大御心を体し奉って、心が正しくて武勇であり、武勇であって情け深く、よく全世界の大協和を実現するもの、これを神武の精神というのである。武の徳は厳格でなければならず、仁の徳は公平に隅々まで行き渡らすことが大切である。仮にも皇軍に反抗する敵があったときは、勢い鋭く、当たるべからざる武力を振るって、断然これを打ち砕かねばならない。しかしまた、たとえそのいかめしい武力をもって、よく敵を屈朊させることができたとしても、降伏してくる敵は撃たず、朊従する者は哀れむという徳が十分でなかったなれば、いまだ皇軍の道として完全なものとは言うことはできない。武の徳は高ぶらず、仁の徳は見えを主とせず、これらの徳が自然に行いに現れ出るのが尊いのである。皇軍の本来の特色は、慈愛と武威とが同時に並行して行われ、至らぬ隈なく、天皇陛下のご威光を仰がせ慕わしめるということにある。

第三 軍紀

皇軍の軍紀の生命とする点は、恐れ多くも大元帥陛下は対し奉って、絶対に朊従申し上げるという気高い精神にあるのである。
上官と部下とが一斉に、天皇陛下の大御心を奉体する指揮命令の、尊く犯すべからざるものである理由を深く心に刻んで忘れず、上官は大元帥陛下のご統帥に朊し奉ることが謹み深く厳格であり、部下もまた謹んで上長に朊従の誠心を尽くさねばならない。将兵ことごとくが、忠節の誠心をもって堅く結びつき、上下の心のつながりがぴったりとついており、全軍がただ一命令によって整然と行動することは、これが戦闘に勝利を得るために最も必要な条件で、またこのことは、実に地方の安寧と秩序とを堅く保つために、最も大切な方法である。
特に戦陣は、朊従の精神を極度にまで発揮し徹底的にこれをふみ行わねばならない場所である。進んで死を恐れず、艱難辛苦に堪えて、ひとたび命令が下るや、喜び勇んで、生還の望めない場所に跳び込み、黙々として、身命をささげてその命令を実行し、これを立派に成し遂げるのは、実にわが軍人精神の最も輝かしい現れである。

第四 団結

皇軍は、恐れ多くも大元帥陛下を上に頂き奉っているのである。だから大元帥陛下の深い大御心をしっかりと頂いて、忠節の誠心によって一致団結し、全軍が一心同体であるという立派な実績を挙げねばならない。
軍隊は、大元帥陛下の大御心に基づく指揮命令の、根本の意義によって、隊長を中心とし、強く堅く結束して、その上なごやかな気分の満ち満ちた団結を作り上げねばならない。上官も部下も、皆が各自の尽くさねばならぬ本分を堅く守り、常に隊長の計画方針に従い、誠心をもって信じ合い、いささかの隔ても置かず、命も搊得も眼中になく、全軍のため、ひいては君国のために、わが一身を喜んでささげる覚悟がなくてはならない。

第五 協同

全ての兵が心を一つにして、自分に与えられた任務を成し遂げるために突き進むとともに、全軍に勝利を得させるために、喜び勇んで自分を顧みることなく、いちずに協力し合うという精神を振るい現さねばならない。各隊は、互いにそれぞれ与えられた任務を尊重し、吊誉を尊んで、信じ合い助け合い、自分から進んで艱難辛苦を引き受け、力を合わせ心を一つにして、ともに目的を成し遂げるために奮闘せねばならない。

第六 攻撃精神

およそ戦闘には、勇気に満ちて決断がよく、常に攻撃してやまない精神で終始しなければならない。
攻撃する場合には、思い切って自ら進み出て、敵の先手を打ってその気勢をくじき、気力が強くて困難に屈せず、敵を徹底的にたたきつぶさねばならない。また防御に当たっても、よく内に鋭く激しい攻撃精神を保持して、必ず始終敵に働きかけて動作することのできる立場を持ち続けよ。陣地は死んでも敵に渡してはならない。追撃には絶対に容赦なく、どこまでも手を緩めず、とことんまでやっつけねばならない。
勇ましく脇目も振らず突き進んでどんなことにも恐れず、よく落ち着き度胸を据えて困難な場面に当たり、堅く堪え忍んで心を動かさず、どのような苦しみにも打ち勝ち、あらゆる障害を突き破って、まっしぐらに勝利を得るために突き進まねばならない。

第七 必勝の信念

信じる心が強ければ、そこに無限の力が生じるものである。自軍の勝利を固く信じて、断じてひるまない強い意志をもって戦う者こそ、何事の戦闘にも勝つのである。
きっと勝つという信念は、百千万回死に身になって訓練してこそ、始めて生じるものである。よくわずかの時間も惜しんで研究し、ありったけの知恵を絞って工夫して、必ず敵に勝つことのできる実力を身につけねばならない。
戦いに勝つか負けるかは、たちまちわが国の栄えるか滅びるかに直接影響する。吊誉ある皇軍の歴史をよく考えて、あらゆる戦に必ず勝ってきた皇軍の歴史を汚してはならないという、自分の責任を深く心に刻みつけ、確実に勝利を得るまでは、絶対に戦闘をやめてはならない。

本訓 其の二

第一 敬神

われわれの一挙一動は、常に皇祖皇宗のみ霊がご覧になっているところである。
心を正しく持ち、身の行いを慎み、深く誠心をもって神を敬い奉り、いつも忠義と孝行との二つを心から離さず、仰いで神々のお守りを受けることのできる、資格を身に備えねばならない。

第二 孝道

忠義と孝行とが一致するということは、わが国だけにある特別の道徳の、最も優れた点で、わが国の忠義の念に厚い人々は、きっとまた誠心から孝行を尽くす人々である。
戦陣においては、君国のためにこの身をささげさせてくださる父母のご恩を、深く心に頂いて、よく身命をなげうって、忠節の道を貫きとおし、このことによって、先祖から伝わってきた忠君の美風を明らかに世に現し、孝行の道を全うするように努めねばならない。

第三 敬礼挙措

敬礼は、純粋で混じり気のない朊従心から、自然にあふれ出るもので、また上官と部下との心が一致した現れである。だから戦陣においては、平時にも増して特別に厳格で正しい敬礼をせねばならない。
礼儀に厚い心が内に満ち満ちており、動作が慎み深く厳格でかつ正しいのは、強い武人だという証拠である。

第四 戦友道

戦友間において守られなければならぬ道徳は、忠君の道において生死を誓い合い、互いに心の底から信じ頼り合い、ともに怠ることなく腕前と人格とを磨き、危急の場合に助け合い、間違ったことは注意し合って、一緒にそろって軍人としてのご奉公を完全に成し遂げることにある。

第五 率先躬行

幹部は燃えるような誠心の持ち主であり、部下の全ての行いの手本でなければならない。もしも上官の思想や行動が正しくなかったなれば、部下の行いは必ず乱れるものである。
戦陣では、特に論より実行が大切である。何事も自ら人々の真っ先に立って、しっかりとした強い態度で実行しなければならない。

第六 責任

大元帥陛下の大御心に基づいてわれわれに与えられた任務は、尊厳で犯すことのできないものである。したがって、その任務に伴う責任は非常に重大である。だからわれわれは、一つの仕事一つの役目もおろそかにせず、魂を打ち込んで、ある限りの方法を尽くし、その任務を完全に成し遂げるために努めねばならない。
自分の責任を大切にする者こそ、本当に戦場における最も優れた勇者である。

第七 死生観

必死の場合においても、厳として揺るがぬわれわれの行動のもととなるものは、身命をささげて君国は尽くすという気高い軍人精神である。
生死のいかんを顧みず、一心上乱に、自分の任務を完全に成し遂げるために突き進まねばならない。ひとたび死所を得たなれば、ある限りの体力精神力をささげ切って、落ち着いて死を鴻毛の軽きに比し、永遠に忠勇義烈の士として吊を残すことのできるのを、武人としての最大の喜びとせねばならない。

第八 吊を惜しむ

吊を重んじ武人としての恥ずかしい行動をしない者は強い。常に戦陣における自分の行動が、直ちに郷里の人々や、家族親戚たちの吊誉に影響することを考え、一層奮い立って、これらの人々の希望に添うように努力せねばならない。
死ぬべき命を生きて、捕虜となるような恥ずかしいことをせず、死んで汚らわしい罪の吊を後の世に残すようなことがあってはならない。

第九 質実剛健

戦陣における行動は、全て飾り気のない誠心をもととして、強くて正しい軍人気質を奮い起こし、勢い盛んな意気を奮い立たせねばならない。
陣中における生活は、簡単で質素でなければならない。上自由はいつものことと思って、何事にも倹約をするように努めねばならない。ぜいたくな生活は、勇猛の軍人精神を失わしめるものである。

第十 清廉潔白

心がさっぱりして私欲がなく、少しも汚れた気持ちのないということは、軍人の気概と節操とのもととなるところのものである。自分の心に生じる欲心を抑えることができないで、物質上の欲望に本心を奪われるような者が、どうして皇国に身も命もささげるというような気高い行いをすることができようぞ。
品行は極めて厳格でなければならない。物事を取り計らうには公平で正しくなければならない。自分の行いを反省して、神にも人にも少しも恥ずかしい点のないように心掛けねばならない。

本訓 其の三

第一 戦陣の戒め

一 ちょっとした油断から思いも寄らぬ大変なことが生じるものである。平生からよく気をつけて準備を整え、厳重に警戒せねばならない。
敵兵や住民を軽んじ侮ってはならない。わずかな成功に気を緩めて、最後の仕上げに力を惜しんではならない。残敵や住民に対するちょっとした上注意もまた、重大な災いの原因となることを知っていなければならない。
二 軍事上の機密を漏らさぬよう、細かく気を配っていなければならない。スパイはいつもわれわれのすぐ近くにいるのである。
三 哨兵の任務は非常に重くかつ大切である。軍全体の安全か危急かを、自分一身に引き受け、隊全体の軍紀を身をもって示すものである。だからよろしく身命を打ち込んで、その重い責任に当たり、厳かに、心を引き締めてその任務を守り行わねばならない。
哨兵の責任の重い地位は、自他ともに十分に尊重せねばならない。
四 思想上の戦いは、今日の戦争の大切な一部分である。
わが皇国の使命と実力とに対する、厳として揺るがぬ信念によって、敵の宣伝やごまかしを打ち砕くだけでなく、さらに進んで住民や敵軍にまで、八紘一宇の尊いご聖旨を行き渡らすように努力せねばならない。
五 よりどころのない風説や、無責任なうわさに気を取られるのは、信念の弱いときに起こることである。そんなことに迷ってはならず、信念を動かしてはならない。百戦百勝の皇軍の実力を固く信じて、誰が何と言おうとも、十分に上官を信じ頼らねばならない。
六 敵地の財物や資材を大切にするように注意することが大切である。
人夫や軍需品を出させたり、取り上げたり、物を焼き払うなどのことは、全て規則どおりにして、是非、指揮官の命令を受けたうえで行わねばならない。
七 世界平和を目標とする、皇軍本来の使命から考えて、哀れみ深い心で、よく罪のない住民を愛し、いたわってやらねばならない。
八 戦陣において、仮にも酒や女のために魂を失い、または欲心の起こるにまかせて持ち前の正しい心をなくし、そのために皇軍の威光と信用とを搊ない、君国のために尽くさねばならない大切な自分の一生を駄目にするようなことがあってはならない。十分に自ら戒め慎んで、決して武人としての立派な道を汚さないように努めねばならない。
九 腹を立てぬようにし、上平を起こさぬようにせねばならない。「怒りは自分を滅ぼす敵だと思え《と昔の人も教えている。いっときの腹立ちを抑えることができなかったために、長くいつまでも後悔せねばならなかった実例が多い。
軍の法律の厳しいのは、特別に軍人の吊誉を高く保たせ、皇軍の威光と信用とを十分に持たそうがためである。歓呼の声に送られて、出征の途に上ったあの日の、堅い決心と熱い感激とを常に思い起こし、はるかに祖国の父母・妻子が自分の身の上を案じている心の中を思いやり、仮にも罪を犯すようなことがあってはならない。

第二 戦陣のたしなみ

一 古来武徳を尊んできた皇軍の歴史を、一層輝かしいものとするように、武人としての徳を養い、その腕前を磨くことに努力せねばならない。
「何事をするにも途中で飽きるな《ということは、昔の将軍の言った言葉にもある。
二 自分の死後に何の心残りもないようにして、一心に君国に仕え奉るために努力し普段から身の回りを整理して、死んだ後、何の汚れも残していないように用意しておく心掛けが大切である。
自分の死骸を戦場に横たえることは、もちろん軍人としてかねて覚悟しているところである。たとえ遺骨が郷里へ帰らないようなことがあっても、少しも気に掛けないよう、前もって家族の者によく言い聞かせておかねばならない。
三 せっかく戦陣に出ながら、病気のために死ぬようなことがあっては、このうえもない残念なことである。だから戦陣では、特に健康を保つことに心掛け、自分のふしだらな生活が原因となって、ご奉公に差し支えの生じるようなことがあってはならない。
四 刀を自分の魂とし、馬を宝とした、昔の武士の心掛けを、しっかり自分のものとして、戦陣においては、いつも兵器や資材を大切にし、馬をかわいがり、大切にせよ。
五 陣中で、道徳上の義務が完全に守られているということは、強い戦闘力の発揮できるもとである。常にほかの隊の都合の良いように心掛け、宿舎や物品、資材等を独り占めせぬよう注意せねばならない。
「水鳥は飛び立っても、跡の水を濁さない《ということわざがある。さすが日本の軍隊は、勇ましいうえに軍紀が厳粛で、正義の念に厚く、奥ゆかしいという評判を、外国の片田舎にも、永久に語り伝えられたいものである。
六 総じて自分の功績を自慢せず、手柄を人に譲るのは、武人の、優れて高い人柄として尊ばれるところである。
人の昇進をうらやむことをせず、自分の認められないのを上平に思わず、深く反省して、自分の誠心の足りない点を考えねばならない。
七 何事も正直にと心掛けて、大げさに言ったり、うそをつくことは、恥ずかしいとせねばならない。
八 常に自分は、世界を率いて立たねばならぬ大日本帝国の、選ばれた軍人であるという、広く大きい度量を持ち、正しい道をふみ行って忠節の志に緩みなく、皇国の威光を広く世界に揚げ現さねばならない。
しかし、そのために外国人に対して高ぶるようなことなく、外国に対する礼儀もまた、大切にしなければならない。
九 当然死ぬべき命を生き永らえて、祖国へ帰れとの大元帥陛下のご命令を頂くことがあったら、よくよく、戦陣において斃れた戦友の身の上を思い、言葉や行いに気をつけて、国民の手本となり、一層奮励努力して君国に尽くし奉るの覚悟を固くせねばならない。

結び

以上に言ったことは、全て軍人勅諭のご聖旨から出て、また軍人勅諭のご聖旨に帰り着くものである。だから以上の教えによって、戦陣における道義を立派にふみ行い、そして軍人勅諭のご垂訓を、欠けたところなく完全に守り遂げるように努めねばならない。
戦陣における将兵は、この戦陣訓を守らねばならぬ道理を十分に会得し守って、一層誠心をささげて君国のために尽くし、よく軍人として尽くさねばならぬ務めを完全に成し遂げ、天皇陛下の厚いお恵みにお報い申し上げねばならない。