ミニ論点

  「核体制見直し(NPR)《の評価について 

   米国、ロシア、日本の専門家


      2018.02.04 毎日新聞
  

トランプ米政権が2日に発表した「核体制見直し(NPR)《の評価について、米国、ロシア、日本の専門家に聞いた。

米軍備管理協会事務局長
ダリル・キノンボール氏

′核兵器「使いやすく《懸念

 今回のNPRの最大の特徴は、ロシアに対する米国の核抑止力を強化するために、2種類の新型核兵器の導入を打ち出したごとだ。こうした核兵器は実際に地域紛争で使用される可能性があり、今後は核兵器が「より使いやすく《なるのではと懸念している。

 具体的には、米国防総省は欧州のバルト諸国や東欧地域で紛争が起きた場合に使用することを想定している。爆発威力の規模が小さい小型核ならば「紛争解決に役立つ《との見方をしているためだが、逆に全面核戦争に発展する恐れもある。米国はすでに戦術核兵器を多数保有し、欧州に配備している。さらに新型核兵器を開発すれば、ロシアとの核戦争の可能性をいたずらに高めるだけだ。

 これは、歴代米政権が核兵器の役割や保有数を減らしたり、核兵器を「使えない兵器《と位置付けようとしたりした取り組みに逆行する。核兵器の役割を高め、核兵器を使用するより多くの機会を大統領に与えることなる。米国の指導力に対する国際社会の疑問も起きかねない。

 北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威にさらされている北東アジアの安全保障環境を考慮に入れた場合でも、新型核兵器は上要だ。韓国や日本などの前線に展開することになれば、北朝鮮の核兵器開発をかえつて後押しすることにつながる。
【聞き手・ワシントン会川晴之】



露シンクタンク「P-Rセンター《
代表理事′エブゲーにー・ブジンスキー氏

・「再び偉大な国《鮮明に

 今回のNPRの背景には、戦術核(小型核)の配備でロシアにはるかに劣っているとの米国側の認識がある。だが、何より「米国を再び偉大に《というトランフ大統領の姿勢が大きい。戦略核の能力では対等だが、戦術核でもロシアに追いつき、「偉大な国《になろうという考えだ。

 ロシアが核兵器の製造をやめられないのは、製造施設のある町の住民数千人が職を失ってしまうという側面も大きい。米国は現在、新しい核兵器を製造していないが、国内の製造業を活性化させたいトランプ氏にとっては、新たな核兵器工場も必要なのだろう。

 米国が戦術核をロシアに使用すれば、ロシアは必ず核で報復し、大規模な核戦争になる。地球は終わりだ。米国は「ロシアも小型核を実戦で使うシナリオを描いている《と確信しているようだが、ぞのような計画は公式の文書には書かれておらず、ロシアにはないと考える。

 一方、米国防総省は米露の核兵器削減体制を維持したいと考えていると思う。1994年に第1次戦略兵器削減条約(STARTl)が発効してから、互いの戦略核を監視できるようになり、この体制に慣れているからだ。2011年発効の新STARTの期限は21年。今のような米露対立が続けば、条約延長に米側が同意するのか読めないが、理性が働いてくれることを願う。
【聞き手・モスクワ杉尾直哉】



岡崎研究所研究員(米国防政策・核戦略)
村野 将氏


「4か国吊指し《新しく

 過去のNPR策定の際にも、各国を対象にした極秘の机上演習を行い、どのような核兵器が何発必要かを分析していたが、今回はロシア、中国、北朝鮮、イランを吊指しして具体的な戦略を記述している点が新しい。中露は米国が核使用のハードルを下げようとしていると批判し、自国の核戦力を増強する口実にするだろう。米国はそのような中露の方針に対抗しているわけで、両者の議論はかみ合わない。

 今回のNPRでは、北朝鮮国内の具体的な攻撃対象に触れて、先制攻撃を辞さないような書き方をするなど、かなり踏み込んでいる。これは北朝鮮を抑止すると同時に、我々同盟国を安心させようというメッセージであり、評価できる内容だ。

 NPRに盛り込まれた爆発力の小さい小型核の導入はもともと、ロシアをにらみ、欧州地域での核の脅しを背景とした現状変更や、限定的な核使用への対抗手段を増やすことが議論の始まりだった。一方でNPRを練り上げる過程で、小型核の導入に関連して、中国や北朝鮮の情勢も考慮すべきだとの意見が出された。小型核の導入を決めるうえでは、北朝鮮慣習が緊迫していることが補強的な理由になったと思う。更に小型核はいずれも潜水艦搭載型で、従来の航空機搭載型のように展開先の基地を攻撃される恐れが少ないという利点がある。
【聞き手・大前仁】