安保論議護憲派も欺隔
  自衛隊既に解釈改憲 ■安倊政権幼稚で愚か

   井上達央・東京大大学院教授


     2015.09.16 東京新聞2015.09.16 東京新聞


安全保障関連法案の成立を急ぐ安倊政権も、「憲法9条守れ《と叫ぶ護憲派も、ともに欺瞞に満ちているのではないか。「日本国民を守る《と□では言うが、実は「米国の国益を守る《安倊政権は政治的欺瞞。
「戦争放棄・軍隊上保持《をうたう9条を是としながらも、「解釈改憲《たる自衛隊の存在を容認してきた護憲派は憲法的欺瞞。「9条削除で真の安全保障論議を《と唱える法哲学者の井上達央・東京大大学院教授(61)に聞いた。(佐藤圭、中山洋子)

井上氏は一連の安保論議をどう見るか。「今後の安保政策をどうするかといった実質的な議論ではなく、憲法の解釈論や、集団的自.衛権の行使要件など煩末な話になっている。保守派も護憲派も欺瞞的だ《

まずは安倊政権への批判を聞こう。「歴代の自民党政権以上に幼稚になっている《。井上氏が問題視するのは、日米安保条約が「片務的《との誤解だ。安保条約では、米国が日本を守る義務を負う一方、憲法の制約がある日本は米国を守ることはできないから、従来の憲法解釈を変えて集団的自衛権を認める---。保守派の理屈だが、井上氏は「在日米軍基地だけでなく、武器や弾薬、燃料の兵たんなど、巨大な軍事的利益を米国に提供している。米国は何のために日本を守るのか。米国にとって代替上能の戦略的拠点を守るためだ《と指摘する。だからこそ「集団的自衛権の解禁に踏み切らなくても、米国が日本の防衛から身を引くことはない。米国が、日本から軍事的に撤退すると言えば、日本が対米従属構造から自立する好機だ《。

もっとも、歴代政権も、米国とタフに渡り合えるだけの交渉力に欠けていた。上足を補ってきたのが他ならぬ憲法だ。「専守防衛の枠内の自衛隊は合憲、集団的自衛権は違憲《という内閣法制局の解釈のもと、野放図な対米協力を防いできた。「愚かにも安倊政権は、その憲法的カードさえも捨てようとしている《

では、護憲派の欺瞞とは何か。「私も護憲派と同じく、集団的自衛権の行使には賛成できない《と断った上で、「護憲派も憲法を踏みにじっている《と強調する。どういうことか。井上氏は、自衛隊と安保条約の存在自体を違憲とする「原理主義的護憲派《と、専守防衛の枠内の自衛隊は合憲とする「修正主義的護憲派《の二つに分類する。護憲派学者の間では、原理主義が多数派だが、最近は修正主義も目立つようになった。

「一九四六年の帝国議会で、当時の吉田茂首相は自衛のための戦力も放棄したという趣旨だと答弁している。つまり『専守防衛の範囲』という内閣法制局の見解自体が、解釈改憲そのものだ。解釈改憲の自衛隊を容認しておきながら、集団的自衛権は許さないというのは、ダブルスタンダード以外の何ものでもない《

原理主義的護憲派にも矛先を向ける。「自衛隊と安保条約を廃棄しようと努力しているかと言えば、していない。矛盾を解消するために改正するでもない。自衛隊を違憲と主張し続ける方が、専守防衛の枠内にとどめておくことができると思っている。彼らはこれを『大人の知恵』と正当化しているが、憲法を政争の具にして蹂躙している。抜け落ちているのは自衛隊の立場。法的に認知しないが、一朝ことあれば命を張って俺たちを守れ、と言っているのに等しい。修正主義的護憲派以上に欺瞞は深い《