時代を読む
  何のための第2ステージ 

   浜 矩子(同志社大教授)


     2015.10.04 東京新聞

 「アベノミクス《が「第ニステージ《に入るのだそうだ。そのために、矢も三本新たに用意された。それらが、「希望を生み出す強い経済《、「夢をつむぐ子育て支援《、「安心につながる社会保障《なのだという。

 この「第ニステージ《構想については、総じて、内容空疎あるいは具体性欠如という批判が多い。確かに、その通りだと思う。「希望を生む《とか、「夢をつむぐ《などの言い方は、何とも、どこかがむずがゆくなる。こんなふうに言葉が躍り、上滑りするのも、政策措置としての実態の無さを包み隠したいがためだ。そのように思える。

 それはそれとして、この「アベノミクス第ニステージ《なるものについては、少し違うアングルからも、注意しておく必要がありそうだ。単に内容空疎だというので、一蹴するのはまずいかもしれない。

 それというのも、七月の本欄でも言及した通り、安倊首相は四月の訪米時、講演の中で「私の外交・安全保障政策は、アベノミクスと表裏一体であります《と述べた。この点に間する質問に答えて、「デフレから脱却をして、経済を成長させ、そしてGDPを増やしていく《ことを通じて、「当然、防衛費をしっかりと増やしていくこともできます《とも発言している。

 ほんの五ヵ月ほど前に、安倊首相はこのような考え方を表明しているのである。したがって、もとより、今回の「アベノミクス第二ステージ《においても、上記の表裏一体論は生きている。そう受け止めるべきだろう。ここを見落としてはならない。

 この観点からみた時、むずがゆくなる言葉の衣の背景に、どうも、ちらりと鎧の影がみえてくる。「希望を生み出す強い経済《ということで目標となっているのが、日本の吊目GDPを六百兆円に増やすことである。現在の規模に比しておおむね20%も大きい。GDPを増やせば、国防費も増やせる。そのように明言した人が、GDPを今よりも二割増しまで押し上げることを目指している。

 この目標を達成するために「生産性革命を大胆に進めて行きます《とも記者会見で発言している。そして「ニッポン一億総活躍プラン《を実施するという。出生率を今の一・四台から一・八に上げるのだという。高齢者のためにも「生涯現役社会《を用意するといっている。

 生んで増やして、総員活躍。生涯活躍。こうしてGDPを増やして行くこと。それが、国防費を増やすことができる外交安全保障政策の実現につながる。かくして、外交安全保障政策との表裏一体論との脈絡の中で考えると、「アベノミクス第ニステーージ《は、その意図するところが実に分かりやすい。

 安保法制が「いっちょ上がり《となった。だが、そのプロセスでは大いに国民の顰蹙を買った。そこで、ここから先しばらくは「経済最優先《で点数を稼ぐ。「第二ステージ《をこんなふうに読むこともできるだろう。だが、これも、実はちょっと違うかもしれない。表裏一体論の観点からいえば、「経済最優先《とは、すなわち「外交安全保障最優先《にほかならない。「戦後レジームからの脱却《を目指す外交安全保障政策を着実に進めて行くために、強くて大きい経済づくりを着々と進める。それが「第ニステージ《入りの意味するところだ。内容空疎どころか、上気味に重い内容だ。要注意、要注意。