時代の風

  トランプ氏の来年を占う
  対中・対議会嵐の1年に 

  ビル・エモット 英誌「エコノミスト《元編集長


    2018.12.16 毎日新聞



 トランフ米大統領が就任して2年、彼の周囲とホワイトハウスの廊下に渦巻く政治の風が、どれほど激しく予測上能になるか、想像することは困難だった。2019年も同じことが起こりそうである。ホワイトハウスを吹き抜ける台風は、地政学的、経済的に大きな影響を与えるだろう。

 来年がトランフ氏にとって劇的な一年になることを示す三つの理由がある。第一に、民主党が過半数を占める米下院が、トランプ氏に確定申告書公表を強制したり、彼の弾劾を図ったりして、彼を追い払おうとすることは確実だ。第二は、ロシアとの癒着疑惑など16年米大統領選におけるトランプ陣営の疑惑に対するモラー特別検察官の捜査が来年初めに終わり、証拠が明らかになることだ。

 三つ目は、公式には貿易を巡って、実際は防衛、安全保障、さらには世界のリーダーシップを巡って、トランフ氏が中国の習近平国家主席との意地の張り合いの年に突入することである。下院からの圧力が高まり、モラー氏の捜査内容が明らかになるにつれて、中国への攻撃的な姿勢も増幅する。トランプ氏の新年は大嵐になるだろう。だが、トランフ氏、米国、世界が、どこに向かうかはまったく分からない。

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 トランプ氏がどのように振る舞うか、予測はかなりできる。過去2年を見ると、彼は攻撃されたと感じれば、怒って激しく反撃する。その政治的反応には既成の形式がある。それはトランプ氏に最も似ているイタリアのかつての政治指導者、ベルルスコーニ氏が使ったものだ。

 大富豪で自己陶酔的、メディアの大物であるベルルスコーニ氏は、01年から06年、そして08年から11年の伊首相時代、一連のスキャンダルや法的追及にさらされた。彼はある種の殉教者、政治的偏見のある裁判官、検察官、ジャーナリスト、そして政治家たちの犠牲者を演じた。トランプ氏はこれにならっている。20年米大統領選での再選を目指し、彼は来年、「犠牲者戦術《を本格的な戦略に変えそうだ。

 トランプ氏の反応として可能性が高いのは、米国の国益のために外国人に対抗する大胆かつ勇敢な指導者として自身を示すことだろう。彼のスローガン「米国を再び偉大に《のとおり、世界における米国のパワーを再生させていると見えるよう、彼は最善を尽くす。これは主に中国との対決を意味するだろう。

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 今年、中国との貿易戦争は激しくなった。だが(トランプ氏にとって)中国との対立は単なる虚勢ではない。21世紀の二つの大国の戦略的な戦いである。優位性だけでなく戦略的統制を巡る争い、つまり安全保障や技術をどちらが牛耳るか、両国の将来を左右する覇権争いだ。中国の脅威は米国で広く共有されているため、広範な政治的支持を得る戦いでもある。

 中国側にも行動し、強く見せる大きな動機がある。習主席は統制の集中と世界における中国の経済・政治的地位を強化することで、自身の権力を築いてきた。トランプ政権の国内での政治的弱点を中国も把握している。米国内の混乱が最終的に米国を消沈させ、米国の構造に長期的なダメージをおそらく与えると、中国が考える可能性は高い。

 これが意味することは、米中首脳が19年を通して戦い続ける理由があるということだ。なぜなら、双方とも弱く見えたり、敗北したように見られたりしたくないからだ。トランフ氏は追い詰められ、脅かされるほど、中国に対しより強硬な姿勢になる可能性がある。

 トランプ氏には、愛国的な支持、特に共和党の支持を集めるためにタフネスを示すという選択肢もある。一つはイランであり、もう一つはロシアだ。大統領選でのロシアとの癒着疑惑を反証するためには、ロシアとますます対立的になるより良い方法はないだろう。

 しかし、最も魅力的なターゲットはやはり中国かもしれない。来年、ホワイトハウスと(連邦議会議事堂につながる)ペンシルベニア通りに政治的な台風が渦巻くと、その嵐の影響は遠く離れた南シナ海、朝鮮半島、日本、さらには世界の貿易全体で感じられるだろう。19年は興味深く、さらにはエキサイティングな年になるかもしれない。だが、穏やかな年になる可能性は低そうだ。【訳・庭田学】
(原文はニュースサイトに)