中国の夢と足元

  欲望や刺激社会の活力に 

   林 竹さん


     2017.11.08 朝日新聞

 林 竹さん
 漫画エッセイスト
 84年生まれ。四川省出身。中国伝媒大学を卒業、東京学芸大学大学院に留学。日本の魅力を発居している。


 小学生のころから日本が大好きです。理由は何といっても漫画。漫画で私の人生は変わりました。

 イラストに文章を添える漫画エッセーを書いています。旅行やグルメ、ファッションの情報を雑誌やネット媒体で発信する仕事です。日本の魅力を伝えたくて、2013年には吊所や飲食店を紹介する「林竹聞関西(林竹、関西をゆく)《を出版しました。

 この仕事は場所を問いません。iPadとWiFi(無線LAN)があればどこでも仕事の発注を受けることができます。上海に住んでいますが、如移動は自由。今年は雲南省に1カ月、イタリアに1ヵ月、東京に2ヵ月、京都に1ヵ月というふうに、好きな場所で好きな仕事をしています。北京も上海も成都も、京都も東京も魅力的。行きたい所に行く。こういう生き方ができることが、中国の変化を表している気がします。収入や条件をクリアしているので、ビザも問題なく出ます。

 私たちは一人っ子世代で、すべてが自分のものという環境で育ち、自己意識が強い世代です。ありがたいことに親の世代と比べたら、何をやるのもずっと自由になりました。才能で食べていくことができます。

 海外からみると、政治に対する見方が気になるようですが、中国の一般の人は政治には関わりません。共産党員になる人だって、たとえば、公務員になったから党員になったほうが仕事にメリットがある、という感じのようです。ただ、政治的に何が問題になるのか、基準がわからないのは気になります。厳しいネット規制もなんとかしてほしい。表現を仕事にしているのでグーグルもインスタグラムも自由に使いたい。

 規制の一方で、中国のスマホ社会は世界一だと思います。財布を持たずにご飯やタクシー、クリーニングまで何でもそろう。個人情報が漏れるのが心配じゃないかって? もしかしてという問題を考えて、立ち止まってしまうのが日本。中国はとりあえず始めてみて、問題が起こったら対策を考えます。

 中国はいい意味でも悪い意味でも刺激がいっぱい。これ以上おもしろい国はないと思っています。中国は何もないところから新しいものを作り始めている国です。みんなものすごく走って走って、躍動している。「もっといいマンションに住みたい《「旅行していいホテルに泊まりたい《。中国ではそうした思いが社会の活力になっています。中国の欲望に満ちた感じがたまらなく好きです。

 現実を変えるのは政治家や革命家じゃない。旅行やグルメなど、それほど経済的に恵まれていない人でも確実に手に入れられる小さな幸せを届けたいと思って、発居を続けています。(聞き手・金順姫)