中国、社会主義強国の道

  脱欧米、「中国モデル《の自負

  早稲田大学現代中国研究所所長 天空慧さん


      2017.10.27 朝日新聞
 早稲田大学現代中国研究所所長 天空慧さん
 47年生まれ。青山学院大学教授を経て現職。東京大学客員教授を兼任。専門は現代中国論。著書に「中華人民共和国史 新版《「『中国共産党』諭《など。


 習近平氏は間違いなく長期政権を狙っているでしょう。共産党大会の政治報告では、建国100周年を迎える2049年までの間に、さらに35年という節目を設定しましたパそれまでに「社会主義の現代化《を実現するという。35年に習氏は82歳です。建国の父、毛沢東が死去したのは82歳。鄧小平が1992年に南巡講話に赴いたのは87歳の時でした。

 35年という設定は、習氏はそこまでやる気だというメッセージと私は受け止めました。3期15年などという任期ではなく、もっと先を見据えているのです。

 中国の特色ある社会主義が新時代に入ったとし、「外国の政治制度を機械的にまねすべきではない《と述べた習氏が主張してやまないのが、中国の独自性です。

 毛時代の全体主義国家、鄧が率いた権威主義独裁を経て、やがては民主主義社会になるー。西側の人間が中国の体制変容を見るときの一つのモデルで、自明の前提としてきました。しかし習氏は、毛の時代に立ち上がり、鄧の時代に豊かになり、自分の時代には強くなる、と考えています。改革開放から40年近い年月が流れたが、共産主義の一党独裁、権威主義を維持している。なぜ変わらなかったのかを分析する必要があります。

 政治と経済は相互に作用し、経済発展は政治の民主化を促すと考えられてきました。しかし中国の経済発展は一党独裁を崩壊させる機能ではなく、体制を補強する方向で作用している。経済発展をしながら、大国有企業の役割も強化されています。政治体制はそう簡単には崩れないという前提で中国に向き合う必要があるでしょう。

 鄧の時代は西側のやり方を受け入れた。優れたものは欧米にあるという意識があった。その上で経済特区を作るといった独自のやり方、中国の事情を加味した独自性のもとでの発展を模索しました。

 現在の中国は自信を持っています。習氏は「社会主義現代化強国《を築くというビジョンを正面から掲げました。混乱した世界で「中国モデル《をアピールできる、国際社会に影響力を拡大できる段階に入ったのです。習氏の個性もありますが、時代性の反映でもあるでしょう。

 中国で指導者は民衆から選ばれません。政治の誤りも民衆から正せない。その制度にさえ、自信を深めているように見えます。指導者がころころ代わる民主主義国家より、よほど統治効果は良いと。

 トランプ米大統領の登場は中国にとって、まさにチャンスです。これまで国際社会には、米国に頼ればなんとかなるという構造に甘えてきた面がありました。しかし今、トランプ氏に頼れるのか、同盟国を守ってくれるのかという疑念が広がっています。中国は米国が支えてきた国際秩序に挑戦する要勢を強めています。習氏は南シナ海での埋め立てなどを成果として誇りました。既存の国境概念を軽視、あるいは無視するやり方です。中国が35年に軍事力で米国と肩を並べ、GDPでは米国を抜き去ることも現実味のある話です。

 日本との関係はどうか。経済、軍事力で中国は日本を超え、今後ますます差をつける勢いです。尖閣・安全保障問題で一段と強硬な姿勢を強め、経済でも「一帯一路《への参入などを迫っています。

 私は、日本は米国との連携を含め毅然としたしっかりした姿勢を堅持すべきだと思います。しかし、それは対決を目的としたものではない。少しスパンを長くして考え、日中は相互に学び合い、調和のとれた関係を築き上げることを目指すべきです。その意味で「聖徳太子精神《の再構築を提唱したい。中国の皇帝に毅然と向き合いながら、遺構使を派遣し学べるものは積極的に学ぷ。そして「和を以て貴しとなす《で締める。この現代版こそが、これからの日本に求められているのではないでしょうか。
      (聞き手・金順姫)