(チャイナスタンダード)

    国際世論づくり、狙いは 米中の専門家に聞く

    ジョージ・ワシントン大学、デイビッド・シャンボー教授
    清華大学、史安斌教授


      2018年10月4日05時00分 朝日新聞

 欧米が主導権を握ってきた国際世論づくりに中国が挑む。資金力を背景に、世界各国の社会に影響を及ぼそうとしている。狙いは何か。今後の展開をどう見通すか。米中両国の専門家に聞いた。


 ■欧米メディア崩す目的か 多額投資、効果なければ困難に
 ジョージ・ワシントン大学、デイビッド・シャンボー教授

 1953年生まれ。中国政治研究の第一人者。ジョージ・ワシントン大学で教授、中国政策プログラムディレクター。著書に「中国グローバル化の深層 『未完の大国』が世界を変える《(朝日新聞出版)など。


 中国は2007年の第17回共産党大会以降、大量の資金をメディアにつぎ込んで外国へ積極的に進出している。

 国営新華社通信の配信記事が、アフリカ諸国の地方紙を中心に使われるようになっている。米国や欧州でも、一定の存在感を示しつつある。国営の中国国際テレビ(CGTN)は、ワシントンの中心部にスタジオを構え、世界に向けて発信している。

 欧米メディアが海外支局や特派員を縮小しているのに対し、中国メディアは豊富な資金を使える。キューバや中央アジアなど欧米メディアの空白地にさらに進出していくだろう。

 目的は極めて明白だ。欧米メディアによる独占を突き崩し、世論を制御することを目指している。世界の人々の中国に対する否定的なイメージを変えようと試みている。

 ただ、どれだけの視聴者や読者が意識的に中国メディアのニュースを選んでいるかが問題だ。英BBCの視聴者がわざわざCGTNに切り替えるだろうか。少なくともワシントンでは、CGTNを見ている人はほとんどいない。

 CGTNのドキュメンタリー番組はとても良くできていると私は思う。しかし、ニュースは違う。明らかに中国政府のプロパガンダ(政治宣伝)だ。

 そもそも中国の対外発信は、米国とは根本的に異なる。米国は市民社会から発信されるソフトパワーで、民主主義が基礎にある。これに対して、中国は政府主導だ。自国内で自由な発信ができない中国がソフトパワーを持っているとは言いがたい。外国人が中国メディアを通じて知る全てのことは、中国政府のフィルターを通したものだ。

 中国はこれまでの10年間、メディアの海外進出への投資に見合った効果があったとは言えない。中国への好感度が高い国はごくわずかだからだ。中国が力を入れているアフリカですら、対中感情は悪くなっている。効果が表れるには、少なくともあと10年は待つ必要がある。効果が出なければ多額の投資を続けることは難しくなるだろう。

 中国はメディア進出に限らず、巨大経済圏構想「一帯一路《など、無理をし過ぎている。他国に対して強引で厳しい要求をするようになっている。

 中国人自身も自国のプロパガンダの世界の中に生きており、自己認識があまりできていない。何か間違っていてもそれに気づかずに、間違いを重ねてしまう。だから私は、中国が世界強国になるとは思っていない。

 (聞き手 ワシントン=峯村健司)

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 ■正しい中国知ってもらう 欧州で好感度50%超えた国も 
 清華大学、史安斌教授

 1971年生まれ。清華大学ジャーナリズム・コミュニケーション学部教授、副学部長。共産党や政府のメディア関連の役職も多数。編著に「グローバルコミュニケーションとジャーナリズム教育の未来《


 中国は国際的地位が上昇したうえ、世界を指導する役割を果たさなくてはならなくなった。中国が望んだわけではなく、米国が内向きに政策を変えたからだ。

 だが、中国は経済力や軍事力に見合うソフトパワーが上足し、イメージが良くない。国際世論は「西強東弱《で、米英メディアが流すニュースが大半を占めるからだ。正しい中国の姿を知ってもらうため、公平なメディア秩序をつくることが中国の目標だ。

 上公平なメディア環境を中国の指導者が意識するようになったのは、2008年の北京五輪だ。聖火リレーが世界中で妨害され、西側メディアは中国のマイナス面ばかりを大きく報じた。中国政府はこれを教訓に、09年から対外宣伝に力を入れるようになった。

 西側メディアは(ノーベル平和賞受賞後、朊役中に死亡した)劉暁波など人権活動家ばかり伝えるが、中国の市民は彼らのことなど知らない。習近平(シーチンピン)国家主席は「真実の、立体的で、全面的な中国《を自分たちで伝える必要性を強調している。伝えるべきは、中国が各国とともにどう平和的な発展を進めようとしているかや、人民が「中国の夢《をどう実現しようとしているか、といった話だ。

 この10年ほどで、中国の主流メディアは多くの言語で世界にニュースを発信するようになり、成果は上がっている。アフリカやラテンアメリカでは中国の好感度が大きく上がった。調査によっては、中国のマイナスイメージが強かった英仏、オランダ、ギリシャなど欧州の国でも好感度は50%を超えている。

 中国メディアの報道は自国について肯定的な内容が多く、疑問を持つ人もいるだろう。これは政治体制と文化に関係があり、長い目で見ないといけない。いずれ批判できる範囲は広がっていくと思う。情報公開を広げる流れも変わらないだろう。

 西側メディアは批判やスキャンダルの報道ばかりで物事のプラス面を見ない。米国では、黒人が白人警官に射殺される事件が繰り返され、そのたびメディアが暴動などを報じているが、解決しないではないか。建設的で問題解決につながる報道でなければならない。

 今後の課題は、単一的になりがちな報道をどう変えていくかだ。中国の主張が理解されるよう、相手国の状況に応じて内容を変えるべきだし、映画やドラマ、アニメにも大きな力がある。ネットメディアや中国語教育機関の孔子学院なども活用し、多元的に伝えていく必要がある。

 (聞き手 北京=延与光貞)

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