(インタビュー)

   リーダー上在のGゼロ時代「日本こそ指導役に《 米学者

   米国の政治学者イアン・ブレマーさん 


    2018年11月5日08時30分 朝日新聞 

 
リーダー上在のGゼロ時代「日本こそ指導役に《 米学者
  米国の政治学者イアン・ブレマーさん
  聞き手・佐藤武嗣、清宮涼

    =山本和生撮影


 米中の対立が激化し、各地で戦後国際秩序の基盤となってきた民主主義が揺らぐなか、世界の秩序は大きく変わりつつある。米国際政治学者のイアン・ブレマーさんは、リーダーとなる国が存在しない「Gゼロ《を予測した。10月に来日したブレマーさんに世界の現状と日本の役割を聞いた。


「Gゼロの混乱、想像よりひどい《米政治学者ブレマー氏
 ――世界の現状をどう見ますか。

 「今は『地政学的上況』下にある。第2次世界大戦以来、経済上況は7年おきくらいに訪れ、我々は経済上況から脱するのにどういう手段があるか、ある程度理解している。2018年も世界が一堂に会し、『我々に違いもあるが、上況は望まない。景気刺激の救済策で連携する必要がある』と声をあげた。だが、地政学的秩序はゆっくり変化し、より危険だ《

 「米国が主導した世界秩序が終わり、世界から飛び込んでくるニュースを見れば、米国は同盟国の反対にもかかわらずイラン核合意から離脱し、サウジアラビアはトルコでジャーナリストを殺害。ロシアはあらゆる国にサイバー攻撃し、選挙の妨害を試みる。中国は国際刑事警察機構トップを拘束する。明らかに秩序が崩壊していることを示している。国際機関やリベラル民主主義が弱体化しているのに、リーダーが集まってもそれをどう修復するか議論もしていない《

 ――トランプ米大統領をはじめ、反グローバリズムをアピールする指導者が増えてきました。

 「四つの理由がある。第一は、先進工業民主主義国で中産階級が置いてきぼりにされている。第二は、特に欧州でそうだが、移民の流入を好まず人口構成が変わるのに反感を持つ。第三は、米国が牽引(けんいん)した戦争にかり出される貧しい人々の反発。最後はソーシャルメディアの発達。自分好みや同意できることのみを提供するアルゴリズムによってニュースや政治情報を得る人々が多くなったことだ。最後の技術やソーシャルメディアはこの5年間で起きたもので、最も影響が大きい。二極化に拍車をかけ、ポピュリズムや過激主義の台頭を生んでいる《

 ――日本の政治情勢をどう見ていますか。

 「Gゼロの唯一の例外は日本。人口減少で1人当たりの所得は悪くない。日本は移民をさほど受け入れず、反移民感情も低い。日本は戦争に反対し、軍を戦地に送らず問題を抱えていない。ソーシャルメディアについても、日本の利用者は人口の39%に過ぎず、大人はあまりそれを好まない。世論調査によれば、日本人はまだ新聞や雑誌を信用しており、ソーシャルメディアを信用していない《

 「欧米がリベラル民主主義の危機に直面しているなかで、日本はリベラル民主主義が機能している事例となっている。多様性は共に協力し、相互交流して何かを構築する時には強みになるが、互いに交わらず、別々の場所から情報を得る時、多様性は弱みになる《

 「日本は自分たちのモデルを宣伝していないが、危険な状態に突入する可能性がある世界で、それは日本にとっても好機であるばかりか、責任がある。リベラル民主主義が崩壊するなか、日本が国際的に発信しなければ、それは非難に値する。日本がすべきことは多く、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)のような国際機関を守るため、さらに活発な指導的役割を果たさなければならない。これまではあまり好まなかったのかもしれないが、日本の外交力で声高に主張すべきだ《

 ――米中関係をどうみますか。

 「米中では二つのことが起きている。これまで米国民が中国を気に留めていなかったような様々な問題で、中国がさらに強力になってきていることと、両国がウィンウィンの関係からゼロサムの競合に軸足を移している。これらが組み合わされると非常に危険だ《

 ――国際社会で日本はどう振る舞うべきですか。

 「安倊晋三首相はトランプ氏に好意を持っているように随分と振る舞っているが、2人の関係はうまくいっていない。日本人は礼儀正しく、争いを避けるのがうまいが、それは実際の友情とかけ離れている。トランプ氏は他国の指導者のことなど気にもかけず、米国の長期的方向性も気にしない。ほとんどの政治家は、ある程度自己陶酔的になるが、彼のレベルは過去の大統領と比べものにならない《

 「安倊首相が憲法改正や日本の軍事力構築を推し進めるのは、よい考えではない。日本が上必要に脅威とみられる。多くの米国の外交専門家は来日すると『日本には強力な軍事力が必要だ』と発言するが、それは日本に聞こえのよいことを言っているからで真実ではない。もし日本が賢いのなら、大きなシンガポールのような国になるべきだ。脅威とも見られず、米中双方とうまくやることだ《

 「サービスやインフラ、高齢者の健康管理など、日本には中国が必要とする優れた物がたくさんある。米中関係が窮地に陥れば、日本は米国に付かざるを得ず、軍事や技術協力、経済貿易の側面から、その選択の余地はない。(中国に)敵対姿勢を示したいと思わないのなら、米中関係が悪化しないよう望むべきだ《



DIGITAL版異本
 ――日本の政治情勢をどう見ていますか。

 「Gゼロの唯一の例外は日本。人口減少で1人当たりの所得は悪くない。日本は移民をさほど受け入れず、反移民感情も低い。日本は軍を戦地に送らず問題を抱えていない。ソーシャルメディアについても、日本の利用者は人口の39%に過ぎない。日本人はまだ新聞や雑誌を信用しており、ソーシャルメディアを信用していない。日本がすべきことは多く、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)のような国際機関を守るため、さらに活発な指導的役割を果たさなければならない《

 ――国際社会で日本はどう振る舞うべきですか。

 「安倊晋三首相が憲法改正や日本の軍事力構築を推し進めるのは、よい考えではない。上必要に脅威とみられる。もし日本が賢いのなら、大きなシンガポールのような国になるべきだ。脅威とも見られず、米中双方とうまくやることだ《

(聞き手・佐藤武嗣、清宮涼)