朝日新聞の「広義の強制性《という詭弁

  IRONNA 産経新聞

   渡邉哲也

    作家・経済評論家


渡邉哲也
作家・経済評論家。1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行っている。


 朝日新聞の吉田証言否定と記事の削除が世論を賑わせている。しかし、朝日新聞や一部の人たちはミスリードや論理のすり替えにより、この問題をあえてわかりにくくしている。これを解決するには分解と整理が有効になる。

 では、慰安婦問題を分解し整理しよう 
 1 慰安婦は存在した 
 2 軍部や国が関与する形で「管理売春《が行われていた 
 3 慰安婦には高額の報酬が支払われていた 
 4 募集は「任意《で行われており、女衒などによる違法な募集は取り締まっていた。 

 この4の「任意《を否定し、「強制性《をもたせた証拠となるものが「吉田証言《である。そして、吉田証言以外に、歴史的「物証《となるものは皆無に等しいのだ。「証言《というのは時間とともに曖昧になり、都合よく作り替えられることが多い。そのため、戦後70年近く経った現在の証言は証拠能力を持たない。つまり、「吉田証言の否定《とは唯一といえる「強制連行《の証拠の否定である。

 これを朝日新聞は 1「女性の人権《 や 2「広義の強制性《という言葉に置き換え、自己正当化し、日本政府にその責任を押し付け批判をかわそうとしているわけである。

 これも分解しよう。1 「女性の人権《で言えば確かに売春行為は望ましくなく、許されるものではない。しかし、当時はほぼ世界中で売春が合法であり、日本でも合法であった。また、善悪は別だが、今も売春を合法としている国や地域がたくさんある。根絶すべき問題だが、日本だけがそれも過去の事例を批判される種類の問題ではない。

 次に 2 「広義の強制性《についてである。これは、家族や貧困のために「本意とはいえぬ形で身を売らざる得なかった事《を指すが、本人が自ら募集に応じたわけであり、これで政府を断罪することは難しいだろう。

 また、親などが女衒(女性を売買する職業)に、子供を売った事例も確認されているが、警告や厳しい取り締まりを行っており、これで政府を責任を追求できないだろう。さらに言えば、「広義の強制性《などという論理を政府が認めてしまえば、労動者が生活のために働くことさえ、広義の強制性になってしまう。つまり、「生活のために働く労動者に謝罪と保証しろ《とすらなりかねないわけだ。これは明らかにおかしい。

 このように整理分解することで、慰安婦問題の真実がわかりやすくなり、日本(政府)に論理的責任がないことが明らかになるだろう。これは「右や左という思想《の問題ではなく、単純に「論理と事実関係の問題《でしかないのである。